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—— Moonlight scandal(26)
「え? お父さんが?」
「うん」
透さんは、目を細めて柔らかく微笑んで、「そうだよ」と言いながら、俺の手を握る。
—— 『父には許嫁がいて、なのに母と出逢って、駆け落ちまでして結ばれたのに、結局、会社の為に許嫁の所に戻ってしまい、その後、母が病気で亡くなっても、葬式にも行かなかった』 ——
前にそう話してくれた時、透さんは辛そうな顔をしていた。
—— 『そんな父を見てきて、俺もいつしか、一生続く愛なんてありはしないと思うようになった』
いつも穏やかで優しい透さんが、心の奥にそんな寂しい部分があったなんてって、その話を訊いた時、俺は凄く悲しい気持ちになったんだ。
「父に……、会ってくれる?」
「え?」
全然予想していなかったから、透さんの突然の話に驚いて目を見開いてしまう。
「嫌……、かな」
「い、嫌なんて事はないよ! …… けど、俺なんかが……」
—— 俺なんかが、お父さんに会っていいのかな。
透さんは、ただの検査入院だと言っていたけど、それでも俺なんかが入院先にまで来てしまって良いのかどうか。
お父さんから見たら、透さんと俺が一緒にお見舞いに行くって事自体、不思議に思うんじゃないだろうか。
俺は戸惑っていた。
—— なんで透さんは、俺をお父さんに会わせたいんだろう。
「この前、実家に無理矢理帰らされた後、長い間会ってなかった父に、もうこれ以上篠崎の家の事や会社の事で、振り回されたくないと、一度、話をしに来たんだよ」
取り敢えず、降りよう。 と、透さんに促がされて車を降りた。
太陽がもう西に傾きかけているこの時間でも、まだ日差しが強く、半袖から出ている肌をチリチリと射す。
でも、場所が高台のせいか、少し心地よい風が吹いていた。
「その時に、久しぶりに父とゆっくり話をしてね」
透さんの前髪が、風に吹かれてサラリと落ちる。
その前髪を綺麗な指先でかき上げながら、透さんは言葉を続けた。
「婚約の事は、父ではなくて、あの人が乗り気でここまで話が進んでしまったんだけど」
—— あの人……。
透さんがそう呼ぶのは、お父さんの再婚相手だって事は、すぐに分かる。
透さんが小さい時に再婚して、もう随分と年月が経っている。
それでもお母さんとは呼べなくて、あの人と言う呼び方をするのは、透さんの中にどうしても拭えない、わだかまりのような物があると感じた。
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