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—— Moonlight scandal(35)
いつの間にか、日が暮れかかっていて、薄暗くなっていた。
さっき自販機で買ったスポーツドリンクのキャップを、カチッと開ける音が車中で静かに響く。
「直くん、お腹空いてる?」
「ん~~、」
ペットボトルの飲み口に、唇を付けたところで、透さんに訊かれて、目の前のダッシュボードクロックのデジタル表示に視線を落とす。
日が長いから、思ったよりも時間が経っている事に気が付かなかった。
「実はホテルでデザートをいっぱい食べたせいか、あんまし腹減ってないかも」
でも、喉はカラカラで、スポーツドリンクを一気に喉へ流し込んだ。
「そう? 実は、俺もパーティーで食べたせいか、あまり空いてないんだよね」
夕飯は、後でいいか……。 と、呟く透さんに、俺は飲み途中のペットボトルを差し出す。
「透さんも飲む?」
「うん、ありがとう」
透さんは、俺の手からペットボトルを受け取ると、飲み口に唇を付ける。
喉を反らせて、ペットボトルからドリンクが、透さんの咥内へ流れていく。
その度に上下する喉仏が、なんだか色っぽいなんて思っちゃって、俺は透さんから視線を外せなくなる。
「何?」
俺の視線に気が付いた透さんが、濡れた口元を手の甲で拭いながら、首を傾げて訊いてくる。
「え? いや、えーと……、あー、透さんの水着姿…、じゃなくて泳ぎに行きたかったなーって、思って」
喉仏から、透さんの水着姿を想像してしまっていた俺は、慌てて誤魔化した。
「あぁ……、プールね」
透さんは申し訳なさそうに、「ごめんね、約束守れなくて」と謝るから、俺は慌てて否定した。
「え、いや、今日行けなかったのは、透さんのせいじゃないしっ、こないだ俺も電話を途中で切っちゃったしっ、…… だから、あのっ、だから……」
もっと大人にならなきゃって、思ったばかりなのに、そんな風に透さんのせいにするつもりなんか、なかったのに。
「—— だから、俺の方こそ、ごめんなさい」
「え? いや、直くんは全然悪くないでしょう? 俺の方こそ心配かけて本当にごめんね」
「ううん、俺の方が透さんの気持ちも考えないで、悪かったからっ」
「そんな事ないよ……、」
「あるって!」
なんか、二人で謝り合って、どちらも引かなくて、気が付いたら、顔を見合わせて笑い合っていた。
「そうだ……、直くん、今から泳ぎに行こうか」
突然、思いついたように透さんが提案してきたけど、
予定していたフィットネスクラブの予約は、キャンセルしたはずだった。
「へ? …… 何処へ? フィットネスの予約はキャンセルしなかったの?」
「行けるかどうか、分からなかったから、フィットネスはキャンセルしたんだけど……」
「じゃあ、今からじゃ無理なんじゃないの?」
無理だよねと、言う俺に、透さんは何か考えるように、遠くに目線を遣ってから、俺に視線を戻す。
「いや、フィットネスクラブは無理だけど、違うとこで泳げる所、あるよ」
「ホント? 行きたい! あ……、でも俺、水着ないよ? 透さんも今、持ってないでしょ? どうする?」
「いや、水着なくても大丈夫。 泳げるよ」
何かを企むような、悪戯っぽい笑顔が、気にはなったけど、透さんがそう言うから、きっとそこのプールで、水着の貸し出しでもしてくれるのかなって、思ったんだ。
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