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 —— 幸せのいろどり(8)

 雰囲気に流されやすく、こんな風に言われると、嫌と言えないと確信していた。 「透さんは、男でもいいの?」  俺の ずるい言葉に対して、素直な疑問を口にする直くんが可愛くて、思わず、くすっと笑みを漏らしてしまう。  だから余計に見たくなった。直くんが、快楽に落ちて乱れる姿を。 「俺も女の子の方が好きだったはずなんだけどね……。 でも、直くんだから、いいと思ったんだ」  ずるい言葉で誘う。 「直くんは、男の俺にこんな事されるの、嫌?」  もう一度、追い討ちを掛けるように問いかける。  その瞳に俺だけを映して、思考さえも奪い取りたくなる。  でも、心のどこかで、『――そこで止めるべきだ』と、もう一人の俺が言う。 『冗談だよ』と笑えば、そこで終われると……。  だけどその時、直くんの唇が動いた。 「…… 嫌じゃない……」  それは同意の言葉だと、都合良く受け止めてしまう。  走り出してしまった欲望は止める事なんて出来なくて、理性なんてとっくに崩れていて。  その唇へ—— キスをする……。  直くんの気が変わらないうちに、快楽を引き摺りだすように、激しく。 「…… ンッ—— ふ……」  唇から漏れる直くんの甘い吐息が、俺の鼓膜を揺さぶって、自分の身体が熱くなっていくのを感じた。  直くんは、キスをしながら俺の首に腕を回して引き寄せて、もっと深いキスを仕掛けてきた。  —— 慣れている……。  先日見かけた、女の子達と楽しそうにしていた姿を思い出してしまう。  ここで止めた方がいいと思う気持ちとは裏腹に、何か黒いものが胸の奥で渦巻くのを感じていた。  それが何なのかは…分からないけれど、ただ……。  抱き合って密着した彼の下半身が、硬く主張しているのを感じて、そして俺自身も、熱くなっているのを認めなければいけない状態になっていて。  もうお互い、行き着くところまで行くしかないという事だけは、分かっていた。 「もう、勃ってるね」 「う…… っ、あァッ……」  ズボンの上から硬く主張している部分を撫でると、羞恥からか顔を真っ赤にしている。 「キスだけで、感じちゃった?」  自分も同じような状態なのに、冷静さを装って、わざと直くんの羞恥を煽るような言葉を選ぶ。  顔を紅くし、困惑して、逃げようとする直くんは、とても女の子と遊びで寝るようなタイプには見えない。  この先の直くんが、どんな反応をするのか、見てみたい。 それはもうきっと、男の素直な欲情でしかなかった。

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