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—— 幸せのいろどり(24)
直くんが頷いてくれたことが嬉しくて、この場で抱きしめたい衝動をどうにか抑えてハンドルを握った。
咄嗟に思いついた賭けだったけど、直くんは誘いを断るだろうと思っていた。
拒否しなかったのは、ただ流されているからかもしれない。『今』だけかもしれないと、思うけれど。
それでも断らなかった直くんが、『今だけ』を愉しみたいと思っているのなら、それも良いんじゃないかと、思えていた。 ただ、引き際を先延ばしにしただけかもしれないけれど。
この曖昧な関係を続けても赦されるだろうか。 直くんが、もう俺とは逢いたくないと思うまで。
いつか終わりがくると分かっている。 それなのに、少しでも一緒にいたいと求めてしまうのは、エゴだろうか。
信号待ちでハンドルから手を離し、さっきから会話が途切れないようにと、気を遣ってくれているのか、ずっと一生懸命に喋ってる直くんの手にふわりと自分の手を重ねると、驚いて俺を見上げる瞳。
「今夜、泊まるよね?」
そっと直くんの耳元に囁いて、「はい」と返ってきた応えに、どうしようもなく身体が熱くなってしまっていた。
重ねた手を動かして、指の間を擽るように滑らせれば、焦ってすぐに頬を紅く染めてしまう直くんに、早くもっと触れたいなんて思う。 そんな自分に呆れてしまうけど。
信号が青に変わって、なんとか自分の熱を抑えて、直くんに触れている手を離しハンドルを握る。
いい大人が…と思うけれど、高まってくる熱を自分ではもう、どうすることも出来ずにいた。
—— 本当にどうかしてる。
マンションのエレベーターに乗り、階数ボタンを押しながら、隣に立っている直くんに今すぐキスをしたい衝動に駆られて、ドアが閉まりきらないうちに、抱き寄せてしまった。
「ちょっ……」
驚いて、よろけた直くんの身体をしっかりと抱きしめて唇を重ねると、もう自分では止めることができない程熱くなってしまい、ここがエレベーターの中だということも忘れて、深くその咥内を貪り尽くした。
12階に着くまでに、昂ぶる気持ちをなんとか抑えて、唇を解放すると、直くんは耳まで真っ赤にして、熱に潤んだ瞳で見上げてくる。
「可愛いな……、顔が真っ赤だよ」
わざと平静を装って、そんな事を言ってみたけど、俺の内側は多分、直くんよりも熱くなっていると思う。
自分の部屋の玄関までの通路が長く感じる。
こんなに激しく『欲しい』と思ったのは初めてかもしれない。
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