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—— 幸せのいろどり(27)
カーテンの隙間から射し込む、明るい日差しの中で微睡みながら、直くんの背中をそっと抱きしめて、確かに腕の中に直くんがいる事を確認してホッとする。
安心して、また眠りに落ちそうになれば、腕の中の身体が僅かに身じろぐのを感じて意識が呼び戻される。
じっと見詰められているような視線を感じて、「あんまり、見つめないでくれる?」と、目を閉じたまま笑ってしまった。
おはよう、とキスをして、二人で布団の中で抱き合っていると、ずっとこのままでいたい…… なんて思ってしまう。
誰かと一緒に、こんな風に暖かい気持ちになれた朝は、初めてだった。
身体がだるそうな、直くんに、「もう少し、ゆっくりしてて」と言って、先に寝室を出て、遅い朝食の準備をしながら、さっき起きてからの会話を思い返していた。
——『言い訳するとね、その……、こないだ直くんが起きる前に仕事に行かないといけなかったから……、メモに俺の携帯の電話番号を書いておいたんだけど……』
『だから、連絡くるまで待とうと思ってたんだけど、数日しか経ってないのに、連絡が来ないのが寂しくて不安だったりしてね』
昨夜、何度も直くんを抱いてしまった言い訳を、並べ立てた俺。
『…… 食事に誘ったら、直くんがOKしてくれて、凄く嬉しかったんだよ』
でもそれは、本当の気持ちだった。
『すみません、俺…… あの時、番号を控えるの忘れてて……』
直くんは、そう言ってたけど。 多分……、それは嘘なんだろう。
でも昨夜、また逢って、俺の誘いを断らずに、ついてきてくれた……。
直くんにとっては、ただ流れのままの行動だったのかもしれないけれど。
—— それでも……、もしかしたら、このまま…… と、そこまで考えて、また性懲りも無く期待をしている事に気付いて自嘲する。
—— ありえない、そんなことは、ありえない。
自分の気持ちでさえ、ずっと変わらない自信もないのに……。
それでも……、どうしても直くんの存在が、俺の中でどんどん大きくなっていくのを、感じずにはいられない。
朝食を並べ終わったダイニングテーブルの椅子に座って、そんな事を考えていると、不意に後ろから声をかけられた。
「—— 透さん……」
振り向けば、直くんがパジャマ姿で立っている。
「直くん、身体、大丈夫なの?」
「うん、俺、腹減っちゃって……」
身体は辛そうなのに、お腹の辺りを押さえて照れくさそうに言う直くんに、思わず頬が緩んでしまっていた。
「朝食できてるよ、食べようか」
俺がそう言うと、みるみる嬉しそうな顔になる。
「うわーっ、美味そう! いただきまーす」
「どうぞ」
二人で向かい合って席に着いて、食卓を囲む。
本当に美味しそうに食べる直くんの顔を眺めながら、今日くらいはこんな風に、二人でのんびりと過ごしたいな。 なんて、考えていた。
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