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 —— 幸せのいろどり(28)

 外の空気は冷たいけど、冬の柔らかい日差しが掃き出し窓から入るリビングは、暖かくて過ごしやすい。  直くんは、クリスマスイブの日に、この部屋に来た時は、少し緊張していた様子だったけど、今は、リビングの床のラグに座り込んで、ローテーブルに頬杖をついてテレビを見てる。  俺は、後のソファーから直くんの後姿を眺めながら、不思議とこの部屋に溶け込んで馴染んでるな、なんて思っていた。  起きてからずっとパジャマのままで、のんびりと過ごしていて、時間がゆっくりと流れている気がしていた。 「…… はぁ~、休日って、面白い番組やってないよね」  直くんは、そう言いながら、猫みたいに伸びをする。  まだ時々敬語が残るけど、随分と話し方も砕けてきて、クリスマスイブの日よりも、昨日よりも、距離は確実に縮まっている気がしていた。 「そうだね、年末だしね」 「ね、ちょっと見せて?」  そう言って振り向くと、ソファーへよじ登るように身を寄せて、俺の読んでいる新聞のテレビ欄だけ見ようとしている。 「DVDでも観る?」 「え? いいの?」 「勿論。 そこの棚にあるだけしか無いけど……」  すぐ傍の棚を指さすと、直くんはDVDを一枚ずつ確認するように選び始めた。 「わ、映画、結構いっぱいある!」  何をするわけでもなく、何の予定もなく、ただこうして一緒に過ごしている時間が心地よくて、ずっとこのまま、時が止まればいいのに。 なんて思ってしまう。 「直くん……、今夜も泊まる?」  一生懸命にDVDを選んでいる直くんに、問いかけてみる。 それはただ、もう少し一緒にいたいという気持ちから、自然に出た言葉だった。 「…… え?」  振り返った直くんは、少し驚いた表情を浮かべているけど。 「映画、何本でも観れるしね」 「わ、いいの? じゃあ、今夜も泊まろうかな」  満面の笑みで応えてくれた直くんに、ホッと胸を撫で下ろした。 俺と一緒に過ごすことを、直くんも少しは望んでくれているのかもしれないと。 少なくとも、迷惑ではないんだと。 「じゃあ、夕飯は何か食べたいものある? 今のうちに買い物行ってこようかな」 「買い物? あ、じゃあ、俺も一緒に行きます」 「いいよ、直くんは映画を観ててくれても」  ホントに、ゆっくりしててもらいたかったから、そう言ったんだけど。 直くんは、何故か照れくさそうに、頬を少し赤らめている。 「…… えと、だって、映画は、透さんと一緒に観たいかなー、なんて思って」  そんな事を言われて、俺はまた期待をしてしまう。 「そう? 俺も直くんと一緒に観たいんだけど……、でも直くんの服、全部洗ってしまってまだ乾いてないと思うんだけど」  買い物に行くのに、パジャマのままってわけにはいかないし、さっき干したばかりの洗濯物は、まだ乾くには早すぎる。 「え?! 洗ってくれたの? すみません、気が付かなくて」  慌てて、洗濯物を取りに行こうとする直くんの手を、掴んで止めた。 「いや、まだ乾いてないから」  そう言って、手を引っ張ると、反動で直くんの身体がソファーの上に座る形で戻ってきて……、  —— イブの日も、こんなだったな……。   と、生クリームを顔中に付けていた直くんを思い出して。 …… その頬を手のひらで包んで、唇を重ねた。

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