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 —— 幸せのいろどり(36)

 ***  翌日、部屋に響く携帯の音で目が醒めた。  —— いつの間に寝ていたのか……。  昨夜、自分のマンションに辿り着いてから、寝室に着替えに来たけれど、何もする気力が起きずに、ベッドの上に倒れこんだ。  考えても考えても、何も結論が出ず、上着だけ脱ぎ捨て、ネクタイを緩めただけで、ベッドの上で眠ってしまっていたようだ。  上着を拾い、ポケットの中の携帯を取り出して受話ボタンを押して耳に当てる。 「…… はい……」  起き抜けで、声が上手く出せずに掠れている。 『もしもし、お兄ちゃん?』 「…… ああ、静香か」 『あれ? もしかしてまだ寝てた?』  言われて、ベッドサイドのチェストの上の時計に目を遣ると、もう11時。 「ああ…… 寝てた……」 『’…… 珍しいね。 お兄ちゃんがこんな時間まで寝てるのなんて』 「昨夜……、遅かったから……」 『ふーん、なんかまだ寝ぼけてる感じだけど、今日は元旦だって、分かってる?』 「…… あ……、そうだったね。 明けましておめでとう」 忘れていたわけじゃないけど……。  寝起きのせいかまだボーっとしていて、とってつけたように挨拶する俺に、静香が不満そうに「今年もよろしくお願いします」と応える。 『ところで、お兄ちゃん、4日って会える?』 「4日? 仕事はまだ休みだし、大丈夫だよ?」 『そぉ? じゃあ、何処かで待ち合わせして、あ、ケーキでも食べて、で、そのまま家に来ない?』 『家』というのは、亡くなった母の実家の事だ。 「んー、そうだね。 あぁでも、カフェレストランはまだ休みだよ」 『え? そうなの? 残念だな。 でも休みって、よく知ってるね?』  4日が休みだと言うのは、直くんから訊いていたから知ってたんだけど、それを静香に言うわけにもいかずに焦った。 「あ、ああ、あの店の周りはオフィス街だから、普段も日曜定休だし、まだ休みの会社が多いから、多分あの店も休みじゃないかな」 『へぇ、そうなんだ。 あんまり詳しいから、お兄ちゃん、私がいなくてもあの店に通ってるのかと思っちゃった』  鋭いところを突いてくる静香に、すっかり目が醒めてしまった。  静香と4日に会う約束をして、携帯をサイドテーブルに置き、バスルームへ向かう。  —— 今日のパーティは、確か1時からだと言ってたな。  頭からシャワーの飛沫を浴びながら、昨夜のことをまた考えている。  パーティに行くのは気が重いし、美絵さんにどんな顔して会えばいいのかと思うけど、今日のパーティには行くと言ってしまったのだから。 約束を破ったりして、これ以上失礼なことはしてはいけないだろう。  今日のパーティは、彼女の話し相手になるだけ……。 終わったら、すぐに帰ろう。  そんなことを考えながらも、他のところに思いを馳せる。  —— 今頃、直くんは、実家で何をして過ごしているんだろう。

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