271 / 351
—— 幸せのいろどり(36)
***
翌日、部屋に響く携帯の音で目が醒めた。
—— いつの間に寝ていたのか……。
昨夜、自分のマンションに辿り着いてから、寝室に着替えに来たけれど、何もする気力が起きずに、ベッドの上に倒れこんだ。
考えても考えても、何も結論が出ず、上着だけ脱ぎ捨て、ネクタイを緩めただけで、ベッドの上で眠ってしまっていたようだ。
上着を拾い、ポケットの中の携帯を取り出して受話ボタンを押して耳に当てる。
「…… はい……」
起き抜けで、声が上手く出せずに掠れている。
『もしもし、お兄ちゃん?』
「…… ああ、静香か」
『あれ? もしかしてまだ寝てた?』
言われて、ベッドサイドのチェストの上の時計に目を遣ると、もう11時。
「ああ…… 寝てた……」
『’…… 珍しいね。 お兄ちゃんがこんな時間まで寝てるのなんて』
「昨夜……、遅かったから……」
『ふーん、なんかまだ寝ぼけてる感じだけど、今日は元旦だって、分かってる?』
「…… あ……、そうだったね。 明けましておめでとう」
忘れていたわけじゃないけど……。
寝起きのせいかまだボーっとしていて、とってつけたように挨拶する俺に、静香が不満そうに「今年もよろしくお願いします」と応える。
『ところで、お兄ちゃん、4日って会える?』
「4日? 仕事はまだ休みだし、大丈夫だよ?」
『そぉ? じゃあ、何処かで待ち合わせして、あ、ケーキでも食べて、で、そのまま家に来ない?』
『家』というのは、亡くなった母の実家の事だ。
「んー、そうだね。 あぁでも、カフェレストランはまだ休みだよ」
『え? そうなの? 残念だな。 でも休みって、よく知ってるね?』
4日が休みだと言うのは、直くんから訊いていたから知ってたんだけど、それを静香に言うわけにもいかずに焦った。
「あ、ああ、あの店の周りはオフィス街だから、普段も日曜定休だし、まだ休みの会社が多いから、多分あの店も休みじゃないかな」
『へぇ、そうなんだ。 あんまり詳しいから、お兄ちゃん、私がいなくてもあの店に通ってるのかと思っちゃった』
鋭いところを突いてくる静香に、すっかり目が醒めてしまった。
静香と4日に会う約束をして、携帯をサイドテーブルに置き、バスルームへ向かう。
—— 今日のパーティは、確か1時からだと言ってたな。
頭からシャワーの飛沫を浴びながら、昨夜のことをまた考えている。
パーティに行くのは気が重いし、美絵さんにどんな顔して会えばいいのかと思うけど、今日のパーティには行くと言ってしまったのだから。 約束を破ったりして、これ以上失礼なことはしてはいけないだろう。
今日のパーティは、彼女の話し相手になるだけ……。 終わったら、すぐに帰ろう。
そんなことを考えながらも、他のところに思いを馳せる。
—— 今頃、直くんは、実家で何をして過ごしているんだろう。
ともだちにシェアしよう!