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 —— 幸せのいろどり(45)

 —— 1月4日。  夕方、静香と待ち合わせをして、適当に選んで入った店で、静香はやっぱりケーキを食べていた。 「…… やっぱり、あのいつものお店のケーキの方が美味しかったな」  店を出て、車を停めてある少し先のパーキングまで歩きながら、静香がぽつりと呟いた。  直くんの、バイトをしているカフェレストランは、残念ながら今日は休みで、—— 直くんも、今夜はサークルの飲み会があると言ってたな。 「…… ね、お兄ちゃんも、あのお店に行きたかったでしょう?」  歩きながら腕を組んできた静香が下から俺を見上げてくる。 「—— え? ああ…… うん、そうだね」  静香には何でも見透かされそうで、慌てて腕時計を見るフリをした。 「…… もうこんな時間か。 早く帰らないと、お祖母ちゃん達、待ってるよ」 「うん、そうだね。 そう言えばお祖母ちゃん、透はまだ結婚しないの? って言ってたよ」 「…… はは、そうなんだ」  静香は知ってるけど、祖父母には、まだ許婚の話をしていない。 「…… お兄ちゃん、どうなの? 本当に美絵さんと結婚するの?」 「…… そうだね」  結婚の話は、両家の間では、すぐにでもと言う勢いで進んでいるけれど、自分の中では出来るだけ先延ばしにしたいと考えている。 せめて、あと1年…… いや、半年でもいい。  周りは多分、そんな甘い考えは許してくれないだろうけど。 「…… お兄ちゃん、美絵さんのこと好きなの?」 「……」  そんな事を考えているのを、やっぱり見透かされた気がして、静香の言葉に即答できなかった。 「…… 嫌いじゃないよ」 「それって、好きじゃないってことよね」 「…… そんな、こと……、」  今日に限って、突っ込んで訊いてくる静香に、思わず言い淀んでしまう。 「…… お兄ちゃん、いくら会社の為でも好きでもないのに結婚したら、相手の人が可哀想よ」  —— 『好きなんです。 親が決めた縁談だけど、初めてお会いした時から……』  静香の言葉に、大晦日の夜の出来事が頭を過ぎって、胸の奥に痛みを感じた。 「…… 好き合って結婚しても、上手くいかない人もいるだろう?」  俺は結婚したら、ちゃんと相手を大切にするつもりでいる。 父のようには、絶対ならない…… つもりでいる。  —— でも……、本当にそうだろうか……。  好きでもないのに結婚したら、相手の人が可哀想――。  静香の言葉を頭の中で反復すると、今まで頑なに信じていた壁のようなものが、少し崩れた気がしていた。 「…… お兄ちゃん、やっぱりお父さんとお母さんのこと、引き摺っていたんだ」  パーキングに着いて車に乗り込み、エンジンをかける。  助手席に座った静香が俺の方を向き、真っ直ぐな視線を送ってくる。 「…… そうだよ。 どんなに愛し合って結婚したとしても、その先はどうなるか誰も分からない」  生涯変わらない愛なんて、ないだろう? だったら、誰と結婚しても同じだと思っていた。  家庭さえ大事にしていればいいと思っていた。  愛してるふりをしていれば、裏切られてしまっても、傷つかないなんて、思っていた。 「そうね……」  静香は、そう言って小さく溜息をつく。  俺の方に向けていた、視線を前に戻して座り直す。 「変わらない愛なんてないと、私もそう思う」  その言葉に、少し驚いて、助手席の静香に目を遣った。  静香もまた、俺の方に視線を合わせて、にっこり微笑んで言葉を続けた。 「…… 愛は、その時その時で、形を変えるから」

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