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 —— 幸せのいろどり(53)

『ばーか、最初っから目を瞑ったら、見えないでしょ?』  大きな手で俺の髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き混ぜる先輩を上目づかいに見上げれば、ふっくらとした唇が綺麗な弧を描く。 『目は、唇に触れる直前に閉じなきゃ』  言いながら光樹先輩は、側にあったパイプ椅子を俺の目の前に置いてそこに座った。 『ほら、これで俺の方が背が低くなって、やりやすいでしょ?』  艶然とした微笑みは見惚れてしまうほどで、掴まれた手を軽く引き寄せる光樹先輩に抗うことも忘れてしまっていた。 『俺の肩に手を置いてごらん?』  言われるままに、光樹先輩の肩に恐る恐る手を置くと、光樹先輩は、『はいっ』と、俺を見上げる姿勢で目を閉じる。 『早くしないと、俺からするよ?』  戸惑っている俺の腰に両腕を回して、また更に引き寄せられて距離が一瞬にして近くなる。  引き寄せられた反動で光樹先輩の膝の上に座ってしまいそうになったが、寸前でなんとか踏みとどまった。  なんでこんな事してるんだ? と、冷静に考えてる自分と、キスへの好奇心がどんどん膨らんでくる自分。  それに、光樹先輩の性格からして、言われた通りにしないと解放してもらえない。 と、思った。  俺は覚悟を決めて、息を止め、少し身を屈めて、光樹先輩のふっくらとした唇に、自分の唇を一瞬だけ押し当てた。  —— 柔らかい……。  一瞬だけだったのに、唇に光樹先輩の柔らかい感触が残っているように思えた。 『だーめ、不合格』  ぼーっとしていると、俺の腰に回していた手に力強く引き寄せられて、今度こそ光樹先輩の膝の上に向き合う形で座ってしまった。  着替えている最中だったから、上は制服のシャツを羽織り、下は下着だけの、まだズボンを穿いていない状態なのが余計に恥ずかしい。 『せ、んぱいっ、何を?!』 『そんなんじゃ、女の子は満足しないよ、透』  光樹先輩は、俺の頬を両手で包み、顔を至近距離まで近づけた。 『俺が、教えてあげるよ』  次の瞬間、塞がれた唇。 『…… ん…… ッ』  最初は重ねただけで、角度を変える。  思わず引き結んでしまった俺の唇を、光樹先輩の舌がペロリと舐めて、『透、力抜いて』と、唇が触れ合う位置で囁く。  光樹先輩の切れ長の瞳が、いつもと違っていて……。 また唇が重なった。  舌が、力の緩んだ唇を割り挿って、ねっとりと歯列をなぞっていく。  何度も…… 何度も。  肌が粟立って、体中の力が抜けていくようだった。  咥内のそんなところで、感じるなんて、初めて知った。 それがなんだか怖くて、顔を僅かに背けて唇を離そうとした。 『—— やっ、…… いや…… ンッ』  僅かに出来た唇の隙間から嫌と訴えたけど、またすぐに唇で塞がれる。  やがて、舌を絡め取られ、柔らかく吸い上げられる。  頬の内側や、上顎にも、光樹先輩の舌が這うように動いた。  口角から零れている唾液は、自分のなのかと思うと、たまらなく恥ずかしい。  —— これが、キス?  官能的なキスは、体の奥に火を点けるようで、意思とは関係なく半身に熱が篭る。 『…… ふ、…… ぅ…… ッ……』  咥内で激しく絡みついてくる光樹先輩の舌に、気が付けば夢中で絡め返していた。  重ねた唇の隙間から、自然に漏れてしまう自分の声と唾液が混ざる音が、夕焼けの橙色が深く射しこむ部室に響き、酷く卑猥に思えた。

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