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 —— 幸せのいろどり(55)

 それは、いつも一方的に、突然で。  ある時は、放課後の校庭の片隅の木々の影で。 『—— せんぱッ…… こんな、ところで…… ッ……』  運動部の練習してる声がすぐそこで聞こえているのに。 『透も、練習しないと上手くなれないでしょ? これ、課外授業ね』 『……』  光樹先輩の課外授業は、段々とエスカレートしていった。  休み時間に廊下を歩いていると、『透、こっち』と、突然声をかけられ、腕を引っ張られて、トイレの個室に引きずり込まれて……。  キスの練習と言いながら……、それだけでは済まなくなっていた。 『…… ッ、や、めて……』  耳、首筋と、舌を這わせて、だんだん下へ移動して、夏の制服の白いシャツの上から、胸の突起をねっとりと舐められた。  シャツが唾液に濡れて、じわじわと広がっていく。 『—— こんなに透けてたら、外に出れないね』 『…… っ、……』  素肌に触れる濡れたシャツが冷たくて、本当にこのままじゃ教室に帰れなくて、言葉を失った。 『乾くまで、ここで一緒にいよう』  そう言って、またキスをする。  そして、必ずいつも耳元に唇を寄せて、低い声で囁いた。 『愛してるよ、透』  —— 愛してるなんて言葉は、信じていなかった。  両親がそうだったように、一瞬だけ燃え上がっても、愛はすぐに消えてしまう。  まるで、初めから無かったように、跡形もなく消えてしまう。  ましてや、光樹先輩の口にする「愛」は、偽りの言葉だと分かりきっていた。  だけど……、俺は拒否できなかった……。 いや、しなかった。 自分の意思で、光樹先輩を受け入れていた。  あれは…… 夏休みの部活の練習の後だった。  一人でシャワーを浴びていると、突然背後から抱きしめられて、項にキスされて。 そのまま壁に身体を押し付けられて、後ろで個室の戸が閉まる音がした。 『—— 光樹せんぱ……ッ』  名前を言い終えないうちに、当たり前のように、唇は塞がれる。  自分も、光樹先輩も、一糸纏わぬ姿で、お互いの肌が密着していた。  シャワー室は一応個室に分かれているけれど、いつ誰が入ってきても、おかしくない状況なのに。  光樹先輩は、後ろから熱く猛ったものを俺の股の間に挿し入れて擦り付けるように腰を動かした。 手は、前に伸びてきて、俺の半身を包み込み上下に扱く。 『…… あ…… ッ、――』  そこを、他人の手で直接刺激されたのは、初めてのことで。 俺は簡単に高みに登り詰めていく。  やがて吐き出された白濁が、光樹先輩の手を汚していく。 『愛してる、透』  いつもの偽りの言葉を囁きながら、白濁に濡れたその指を俺の咥内へ押し入れる。 『舐めて』 『ふ…… う…… ッ……』  口の中に、青臭い独特の味が広がって、気持ちが悪いのに、『美味しい? 俺にも舐めさせて』と、唇を塞がれる。  咥内に残る苦味を拭うように動く光樹先輩の舌に翻弄されるがまま、俺は…… 快楽の沼へ堕ちていった。

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