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 ―― 幸せのいろどり(101)

 さっきまで俺が座っていたあのベンチへ、俺が先に歩いていくと、後ろから直くんがおずおずとついて来る。  俺がベンチに腰掛けると、続いて直くんは少し距離を置いて座る。  その僅かな距離でさえ、さっきまでの諦めの気持ちとは違い、ほんの少しだけ期待する気持ちに変化していた。  正直に全部話そう。 俺の家の事情、父のこと、母のこと。 ―― それから、俺が今まで人を、愛を信じていなかったこと。  だけど、君に出逢って、生まれて初めて人を愛するってどんなことか知ることが出来たんだ。  もっと、今よりもっと、君のことを知りたいと思った。 俺のことも、全部、君に知っててほしいと思った。  直くんが俺じゃなくて、他の人を選んだと思うと…… 嫉妬で激情に駆られて、あんなに傷つけてしまったのに…… それでも、やっぱり手放したくないと思った。 「…… 本当にごめんね、直くん」  俺がもう一度謝ると、ずっと黙って話を訊いてくれていた直くんが、突然俺の腕にしがみ付いてきた。 「…… 直くん?」  驚いて名前を呼ぶと、もっとギュっとしがみついてくる。 「透さんは悪くない! 悪いのは全部俺なんだから!」  直くんは、俺の腕にしがみついたまま、光樹先輩との事を話してくれた。 話している間ずっと直くんの身体は微かに震えている。  ―― もう、いいんだ。 光樹先輩のことはもういいんだよ謝らなくても。 本当に悪いのは俺なんだから。  今、俺を見上げる大きな瞳には、しっかりと俺が映っているんだから。 「他の人を選んだりしないっ、だって……、俺……、」  直くんは、一生懸命に前向きに、俺に気持ちを伝えてくれる。 「俺は、透さんの事が好きなんだから!」  直くんの言葉に、目頭が熱くなるのを感じる。  ―― 透さんのことが好きなんだから! …… それは嬉しくて……、とても幸せな言葉だった。

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