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―― 幸せのいろどり(100)
「…… あの……、」
「直くん、本当にごめんね」
頭を下げて口にした言葉は、何かを言おうとした直くんの声と重なった。
「な…… んで、透さんが謝るの?」
そう問いかけた直くんは、俺から目を逸らし睫毛を伏せた。
街灯の明かりが長い睫毛を照らし、頬に落とした長い影が震えている。
今更…謝っても赦してもらえるとは思っていない。
だけど…それでもいい、話だけでも聞いてほしい。
「…… 直くんを傷つけてしまったから」
赦されなくてもいい、直くんが心に負った傷が癒えるなら、俺に怒りをぶつけてくれればいい。
……心残りが無いように。
「直くんに嫌われてしまっても、仕方がないと思う」
嫌われていても仕方がないなんて本当は思っていないのに、胸の奥からこみ上げる痛みを堪えながら、その言葉を絞り出すように口にした。
「あの日、嫉妬心から、激情だけで直くんを抱いてしまった」
「俺が透さんを嫌いになるなんて、そんなこと…… そんなこと、」
お互いの声が重なって、俯いていた直くんが漸く俺の顔を見上げて、お互いの視線が絡んだ。
「そんな! あれは、俺が悪いんだか…… ら……、」
勢いよく言いかけた直くんの声が、最後は段々小さくなったけれど……、
―― 直くんは今、なんて…… 言った? と、頭の中で直くんの言ったことを反復して、次の言葉がすぐには出なかった。
確かに今…… 俺のことを嫌いになるなんて、そんなこと…… そんなことのその後は? なんて言うつもりだったんだろう。
心臓がありえないくらいに、早鐘を打っている。
あの夜、直くんのことを傷つけてしまった俺に、自分の方が悪かったと言ってくれたのか?
いや、期待してはいけない……と、自分に言い聞かせた。
それはもしかしたら、俺が勝手に良い方に良い方にと考えてしまってるだけかもしれないんだから。
だけど、目の前の直くんも、口をあんぐりと開けて固まってしまっている。 その表情に、俺は少し安堵した。 もしかしたら…… まだ間に合うのかもしれないと。
「…… 直くん、ベンチに座らない?」
逸る心を抑えながら、俺は直くんにそう提案した。
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