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―― 幸せのいろどり(103)
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あの公園の寂しげなベンチのように、色を失くしてしまったモノクロームな毎日は、君と過ごす時間の中に色を見つけていく。
同じものを見て、同じように感動して、一緒に食事をして二人で美味しいねって、笑いあって。
そんな当たり前のことが、幸せなんだと、一緒にいてくれることで、君が教えてくれる。
時には、ケンカをしたり、困らせることもあるけれど、それさえも、色に変えていける。
新しい季節がやってきて、去年とは違った色を見つける。
―― 君とあの公園で出逢って、一年が経つ。
今年のクリスマスイブは、恋人として一緒に過ごせると、直くんは1ヵ月も前から楽しみにしてくれていた。
俺も勿論同じ気持ちで、この日が来るのを楽しみにしていた。
仕事があるから特別なことは出来ないけれど、二人でイルミネーションを観に行って、それから食事に行こうと、約束をしていた。
―― それに……。
俺は、どうしても今日、直くんに話しておきたい事があった。
二人が出逢って、ちょうど一年の記念の日に。
もしかしたら直くんは、怒るかもしれない。 俺のことを、今度こそ嫌いになってしまうかもしれない。 呆れて、俺から離れるかもしれない。
話すべきではないのかもしれないと、思うけれど……。
今日話さないと、もう一生言える日は来ないような気がしていた。
不安な気持ちも過ぎるけれど、その事に触れないで、忘れたふりをして一緒にいても、その先に見えるものも見えなくなりそうで。
でも、きっと……、直くんは現実を受け止めてくれると信じている。
だから、この日の約束の時間は必ず守りたいと思っていたのに。
夕方、仕事でトラブルがあって、どうしても約束の時間に間に合わなくて、電話を掛ける余裕がなくて、遅くなる事を簡単に書いたメッセージを1回送っただけだった。
―― 怒ってる…だろうな…… いや、もう帰ってしまっているかもしれない。
仕事が終わったのは、23時30分をとっくに過ぎていた。
待ち合わせをしているカフェまでは、そんなに遠くないけれど、どうしても0時までには逢いたい。
電車を降りて、待ち合わせのカフェまで全力で走った。
いつから降り出していたのか、雪が舞い降りて、アスファルトの地面を濡らしている。
目的の店のサインボードが見えてきて、ちょうど中から人が出てきたのが目に飛び込んだ。
「直くん!」
名前を呼ぶと、振り返った直くんの顔は、なんだか今にも泣きそうで。
ごめんね。 と、謝ると、少し拗ねたような顔つきに変わる。
そんなところも可愛いなと思いながら、ここが外だというのも一瞬忘れて、尖らせたままの、直くんの唇にキスをした。
もう、とっくにイルミネーションも消えているし、時間は0時を回ってしまっているけれど……。
「直くん、何処か行きたい所ある?」
今日はクリスマスなんだから、直くんの好きなところに連れて行ってあげたい。
「え?今から?」
と、暫く考え込んでいた直くんが、急に何か思いついたように、ぱっと顔が明るくなった。
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