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―― 幸せのいろどり(104)
直くんが行きたいって言った場所は、二人が出逢ったあの公園だった。
「本当に此処が良かったの? 寒くない?」
「うん、だって去年のイブに、此処で透さんと出逢ったんだもん」
さっき降っていた雪は、いつの間にかやんで、まるであの時と同じように空気が澄んでいる。
「ね、毎年、イブの日は此処で待ち合わせしたいな」
言いながら悴んだ手を、俺のコートポケットに入れてくる。
「それでさ、初心に戻るんだ」
直くんの言葉に、俺は口元を緩ませながら、コートの中の直くんの手に指を絡ませて、夜の人気のない公園を二人で歩いていく。
「初心に?」
「時が経っても最初の頃のときめきとか忘れないように、毎年此処であの日のこと思い出すんだ」
木々に囲まれたカーブした小道を進んでいくと、薄い明かりに照らされたあのベンチが見えてくる。
「あ、俺は勿論、ずっと忘れないけどさ…… あ、えーと、透さんが俺に飽きないように…… ね?」
飽きるわけないよ。 直くんのこと、この1年の間に前よりもずっと好きになってる。
それはきっと静香の言ったように、愛は形を変えても愛情は深まるという事。
―― だからこそ……。
「直くん…… 話しておきたいことがあるんだけど」
「…… 何の話?」
「…… 光樹先輩のことなんだけど……」
俺がそう言って話を切り出すと、直くんの顔が一瞬曇ったように見えた。
「…… みっきーのこと? …… 俺、みっきーとは、あれから何もないよ?」
俺の顔色を窺うように見上げてくる瞳は困惑の色を浮かべていて、思わず小さく笑い声をを漏らしてしまった。
「…… 違うよ、そんな事心配してないよ」
直くんのこと、信じているから。
この1年一緒に過ごして、君が嘘をつくのが苦手だって事も知ってる。
誤魔化すのが苦手だって事も知ってるし、いつも真っ直ぐに俺のことを見つめてくれているって知ってる。
だから、俺もたとえ些細な出来事でも隠し事をしたくない。
「…… 俺ね…… 昔、光樹先輩と関係を持ったことがあるんだ」
俺の言葉に、直くんは不思議そうに首を傾げる。
「…… え? 高校の先輩だったってこと?」
「…… うん、そうだけど、そのことじゃなくて…… その……、」
やっぱり言い難くて口篭った俺を見て、直くんはちょっと大人びた顔をして微笑んだ。
「…… 分かってる。 …… 知ってるよ。 多分そうじゃないかなって、思ってたから」
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