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―― 幸せのいろどり(epilogue8)
「えーと……」
見上げてくる真っ直ぐな眼差しが揺れて、直くんは一度睫毛を伏せて、何かを考えてまた顔を上げる。
「どうしたの?」
息を大きく吸って、何かを言おうとするのだけど、吸った息はそのまま吐き出されて、言葉はなかなか出てこない。
「あ、えーと…… 誓いの言葉、思い出してたんだ」
「は?」
やっと思い出したよ。 と、直くんはもう一度、俺の両手を握り直して、真っ直ぐに見上げてくる。
「すこやかなときも そうでないときも 透さんを愛し 敬い なぐさめ…… 助け…… 命の限り …… えっと……、かたく節操を守り、ともに生きることを誓います」
それは、さっきの結婚式の、新郎新婦の誓いの言葉。
直くんは、かなりぎこちなく、それでも思い出しながら最後まで言うと、俺の両手を握っている手に力をこめる。
「…… 直くん?」
俺はどうしていいのか分からずに、ただ直くんの瞳を見つめるしか出来ないでいる。
「…… 透さんも、誓って?」
その瞳には、とても真剣で、俺は思わず同じように真似をする。
「俺も…… 健やかな時も そうでない時も 直くんを愛し 敬い なぐさめ 助け、命の限りかたく節操を守り、ともに生きることを誓います…… ?」
「わっ! ホント? やった!」
急にいつもの笑顔に戻ってそう言うと、直くんはポケットの中から…… リングケースを取り出した。
―― ペアリングケースを……。
「…… 直くん、それ……」
「透さんと、お揃いの指輪。 安物だけど……」
蓋を開けると、細くてシンプルなプラチナリングが二つ並んでいる。
少し驚きながら、視線を指輪から直くんに戻すと、出逢った時の夜空の星のように、きらきらと煌く瞳と目が合った。
「俺達が出逢って、今日が6度目のクリスマスイブだね」
「そうだね……」
「出逢ってから今まで嬉しいことや楽しいこと、それに辛いことや悲しいことも、たくさんあって…… それを全部透さんと一緒に経験できたことが、俺、すごく幸せだなって思うんだ」
そう言いながら直くんは、リングケースから指輪の片方を取り出して俺の左手を取った。
「俺、これからもずっと透さんと一緒に、ひとつひとつ階段を上っていきたい」
そう言って微笑んで、言葉を続ける。
「男同士だから、結婚なんて全然興味無いし、透さんと一緒にいたいからって、無理に束縛するような事はしたくないんだ。 だから、こんな結婚式の真似事みたいな事するのも可笑しいんだけど……。 でも…… ずっとこれからも、毎年、透さんとクリスマスイブを過ごしたい」
そこまで言って、息を吐いて、指輪を差し出した。
「一生一緒に生きていきたいと思ってるから……、これは、その気持ちの証しっていうか……」
俺の左手の薬指の根元を、直くんの指先が触れる。
「…… 指輪、受け取ってくれる?」
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