347 / 351

 ―― 幸せのいろどり(epilogue7)

「おー、透と直も、新郎新婦みたいだね」  そう言って、笑っているのは、光樹先輩。 「―― えー? それって、俺が新婦ってこと? それはないよ!」 「まあ、いいじゃん、いいお嫁さんになりなよ、直」 「えーー? 俺、嫁じゃないもん!」  光樹先輩が直くんをからかって、それに直くんがムキになっちゃうのはいつものパターンで。 「あー、もうお前うるさい。 少しはおとなしくしたらどうだ」  そこで、光樹先輩と直くんの間に、光樹先輩の弟の勇樹くんが割って入ってくる。  そんなやり取りを、本当に幸せだな。 と、思いながら眺めていた。  ずっとこのまま、皆が幸せなら、どんなにいいだろう。  何年か後に皆で集まった時、俺もこの輪の中に、…… 直くんの隣に居たいと、心からそう思うけれど……。  ***  この後、近くのレストランで披露宴の予定になっていて、そろそろ移動しようかという頃になって、 「ね、透さん、ちょっとこっち来て……」  と、突然後ろから、直くんが俺の袖を引っ張った。 「え? 何、どうしたの? もう移動しないと駄目なんじゃない?」 「うん、分かってる……。 けどちょっとだけ。 ね?」  そう言いながら、直くんは俺の手を握って歩き出した。  どこに行くんだろう? と、少し後ろからふわふわと揺れる柔らかな亜麻色の髪を眺めていると、直くんは「ここだよ」と、足を止めて前方を指さした。  それは、さっき幸せな二人が結婚式を挙げたばかりのチャペル。 その重い扉を薄く開いて、直くんは中の様子を窺っている。 「大丈夫…… 誰もいないよ」  と、小さい声で言って、肩越しに振り向いた直くんは、悪戯を思いついた子供のような顔をしていて、ちょっと笑ってしまった。 「大丈夫…… って、直くん…… え?…… 勝手に入ったらダメなんじゃない?」 「ここのチャペル、式が終わった後は暫く誰も来ないから。 でも時間があまり無いから、早く」  俺の心配を他所に、卒業した学校のチャベルで、勝手知ったるって言うことなのだろうか。 直くんは大胆に俺の手を引いて中へ入って行く  バージンロードを進んで祭壇の前まで来ると、直くんは俺の両手を取って向かい合った位置で立つ。  こうして向かい合うと、あの頃よりも背が伸びて、目線の位置が近くなっているのがよく分かる。  数センチ低い位置から見上げてくる真っ直ぐな眼差しは、自信に満ちていて煌いていた。

ともだちにシェアしよう!