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―― 聖夜と生クリーム味の……(9)
「透さんこそ……」
今日はデートとかの予定は?……と訊きそうになって、はっと気付いて口を閉じた。
「ん?何か言いかけた?」
俺の態度に気が付いたのか、透さんは少し不思議そうな顔をしている。
―― うわ…… やばい……。
訊いたら悪いような気がしていたのに。
頭では分かっているんだけど、やっぱりずっと気になっていた事を、思わず言いそうになってしまった。
「いえ、なんでもないです。」
慌ててそう言ってみたけど、透さんがじっと俺を見つめて、「気になるから言って?」って言うもんだから……。
「…… えと…… そういえば…… あの…… いつも一緒に店にくる女の人、最近見かけないなぁ…… と思って」
―― うわーっ! 訊いてしまった! 俺の馬鹿! もし別れてたとかだったら、どーすんだよ……。
でも、言ってしまった事は、無かった事には出来ない。
「…… 気になる?彼女の事」
少し寂しそうな顔でそう聞き返されて、余計に言った事を後悔して焦る。
「いえ、そんなわけじゃ……」
どうしようもなくて、俺はそれだけ言って俯いてしまった。
俯いてしまった俺の顔を、覗き込むように少し屈んでいた透さんは、背筋を伸ばして、また夜空を見上げた。
「あの子ね、こないだ結婚して、相手の人の仕事の関係でアメリカに行ったんだよ」
「え……?」
俺は驚いて顔を上げた。
だって、こないだまで、仲良さそうにデートしてたのに……。こないだ結婚したって事は、もっと前から結婚相手とも付き合ってたって事じゃないのか?
て事は……、透さんとだぶってる時期が、きっとあるんじゃないのか?そんな事を考えていて、俺は口を開けたまま、固まってしまっていた。
「あはは、そんなに驚いた?」
「……はい。……えと、その…… こないだまで一緒にいるとこを見てたから…… びっくりしちゃって」
「あぁ…… そうだよね」
彼女が結婚して逢えなくなったのに、彼はわりと平然としていて……。
「寂しくないですか?」
なんて、俺はつまんない事を訊いてしまっていた。
「まぁ…… 寂しいといえば、寂しいけどね。あの子が幸せになるなら、それが一番だと思ってるよ」
―― 凄いな、透さんて。やっぱり大人だな……。
別れても、相手の事をそういう風に、心から幸せを願う言葉って、あまり日も経ってないのに、なかなか言えないよな…… と思う。
そうか、じゃあ今日はお互い寂しいクリスマスイブなんだな…… なんて、俺は勝手に考えたりしていて。
暫く沈黙が続いてる事に気が付いて、ふと、透さんを見上げると、困ったような、哀しそうな表情をしているように見えた。
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