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 ―― 聖夜と生クリーム味の……(8)

「あの…… 透さんはここで何してたんですか?仕事の帰りですか?」  今日は振り替え休日なのに彼は、スーツの上にコートを着ている。 「うん…… そうなんだよ、休日出勤だったんだ。車で帰る途中だったんだけどね、信号待ちの時に、ふと空を見たら星があまりにも綺麗だったから、車を降りて、ちょっと眺めてたんだ」 「…… 星?」  ―― かっこいい大人の男の人は、言う事が違うな……。  なんて、感心していたら、透さんはクスっと笑って、夜空を指さした。 「本当に綺麗なんだよ、見上げてごらんよ?」  そう言いながら夜空を見上げる透さんと同じように、俺も上を見上げた。 「…… うわっ!本当ですね!今日は星がよく見える」  こんな都会の真ん中で、星なんて、こんなにいつもは見えないし、まぁ普段、星空なんて見上げないんだけど……。 「さっきまで風が強かったからかな……」  透さんは、夜空を見上げたまま、言葉を続ける。 「雲が流されて、そのせいか空気がすごく澄んでるし、ここは繁華街から少し離れているし、オフィス街だからいつもなら見えにくいんだけど、今日は休みの所が多くて灯りが少ないせいか、よく見えるよね」  静かな公園の中、透さんの優しい声だけが聞こえていて心地いい。 「こんなに綺麗な星空が、この辺りで見れるなんて思わなかったです」  都会だから、決して満天の星と言う訳ではないけれど、それでも、やっぱり綺麗な星空だった。 「きっと星が見えやすい条件が偶然に揃ったんだね。またすぐ見えなくなるだろうけど……」  透さんは、そこで一旦言葉を区切り、俺の方へ視線を移して、「たまには空を見上げるのもいいよね」と言って優しく微笑んだ。  その表情に、何故かドキドキしてしまう。その事を隠したくて、俺はまた星を見上げる。  ―― な、何か…… 会話しなくちゃ……って、星空を見るふりをしながら言葉を探した。 「―― そうだ、今日ってクリスマスイブなんですよね」  透さんへ視線を戻して勢いよく言ってみたけど、言葉を探したわりには、あまり面白くもない話題を出してしまった……。 「そうだね」 「…… なのに休日出勤て、大変ですね」 「そういう 直くんも、イブなのにバイトだったんだね。デートとかの予定は?」  透さんも、俺の方に目線を合わせて、またあの微笑みを浮かべながら訊いてくる。  その瞳から視線を外せなくて、見つめられたまま、胸の鼓動が早くなってしまうのを抑えることができない。 「いやー、俺、彼女とかいないし」  ドキドキしながらそう応えると、透さんは目を大きく見開いて、さも意外そうな顔をした。 「そうなの?モテそうなのに?」 「そんな、モテないですよ。」  モテるかもだけど……。  でも、クリスマスイブは遊びだけで付き合ってるような女の子達とは会う気がしなくて、変なとこで、拘ってる自分が可笑しすぎるけど。