12 / 351
―― 聖夜と生クリーム味の……(11)
「じゃ、行こうか?」
透さんは、俺の背中をポンっと軽く叩いて、公園の入り口近くに駐車してあった車に乗るように促した。
初めて話した人の家に、本当に行っちゃってもいいのかな…… と、一瞬頭を過って躊躇したけれど。
「遠慮しなくていいよ」
微笑みながら優しい声音で言われてしまうと、そんな迷いもどこかに消え去ってしまっていた。
**
透さんの住むマンションまで、車で20分程度で着いた。
エレベーターを12階で降りて、通路の一番東の角部屋が透さんの家。
「どうぞ」
「お邪魔します」
あまり物を置いていない、シンプルで清潔な感じの玄関で靴を脱ぎ、廊下の突き当たりのドアを開けると広いリビングダイニング。
全体的に茶系でまとめられた、落ち着きのある大人の感じな色使いの部屋。
男の一人暮らしにしては、綺麗に片付いていた。 掃除や片付けが苦手な俺と大違いだ。
興味津々で部屋の中を見回していると、サイドボードの上に写真立てがあるのを発見……。
―― あ……。
それは、あの彼女と腕を組んでる写真だった。
―― …… まだ忘れるには、時間がかかるって事なのかな。
「そういえば、直くん夕飯は食べたの?」
写真に気を取られていると、透さんがキッチンから声をかけてきた。
―― あ……、そういや食べてなかった。
食べていなかった事を思い出すと、急に空腹でお腹が鳴り出しそうな気がして、鳴らないように願いながら、両手でお腹を押さえた俺を見て、透さんは、にこにこしている。
「…… そういえば、食べてなかったです」
「じゃあお腹空いたでしょ?俺は軽く食べてたんだけど。ケーキ食べる前に何か食べる?簡単なものしか出来ないけど」
―― ええ?透さんの手料理?! 俺のために?
「え、いいんですか?」
そんな、いきなりご馳走になるなんて、俺、図々しいんじゃないかって、心配してしまうんだけど。
「大丈夫だよ、俺もちょっと食べたいし…… ね?」
透さんも食べたいなんて、俺が遠慮しないように、気遣ってくれてるんだって分かってるんだけど、優しい声でそう言われてしまうと、つい甘えてしまう。
「じゃぁ、遠慮なくいただきます」
「出来上がるまで、テレビでも見てたらいいよ」
そう言われたけど、何か手伝った方が……と、カウンターの前で透さんが手際よく料理する姿を眺めていた。
慣れた手付きでパスタを鍋に入れる。 野菜を切る包丁さばきもプロみたいで、その姿が、またカッコよくて見惚れてしまっていた。
「そんなに見つめたら、緊張するよ」
「すっ、すみません!透さんがあまりにも手際よく料理してるから、見惚れちゃって」
俺も、時々厨房を手伝ったりするけど、まだ慣れなくてウロウロしちゃって、「邪魔っ」とか言われちゃうんだよね。
「でも味は保障しないよ」
少し頬を赤くして照れたように笑う顔が、いつものカッコ良さとはまた違い、年上なのに可愛くて、つい自分の顔が緩んでるのに気が付いて、俺まで顔が熱くなった。
ともだちにシェアしよう!