―― 迷う心とタバコ味の……(6)

 あの夜のことは、もう忘れよう。  そうだよ、別に大したことないし。 ただセックスしただけだし。 お互い気持ちよかったんだし。  いつもと違ったのは、相手が男だったってだけで……。 いい経験させてもらったって、思ってればいいんだ。  それで終わり。 また次、なんてありえない。  なのに、何でこう、透さんのことばかり、思い出しちゃったりするのかな。  …… どうかしてる。  目を閉じれば、浮かぶのは、透さんの漆黒の瞳。  ――直…… と、甘い声で囁いて、唇を重ねる。  程よく筋肉がついた、しなやかな身体。  真っ直ぐに伸びている美しい鎖骨。  触れたくて、手を伸ばしてるのに、なかなか届かなくて、焦れったくて、 「…… 透さん……」  名前を呼ぶと、優しく微笑んでくれる。  でも、目の前が霞んできて、よく見えなくて、段々消えていく、透さんの影。  ――待って……、透さん。   透さん……  透さん…… 「透さんっ!」  目を開けると、いつもの天井。  ―― 夢かよっ!  もう忘れようと思ってるのに、気がつけば、透さんの事ばかり考えちゃうから、とうとう夢にまで出ちゃったよ!  あの朝、透さんの残したメモに書いてあった電話番号を、結局俺は自分の携帯に登録しなかった。  ―― だって、俺から電話なんて出来ないよ……。  透さんにとっては、ただの気まぐれで……。  俺もきっとそう。  俺から電話をして、会ったとして…、それから? またセックスする?  それって、セフレって事でしょ?  確かにセフレな関係の女の子は、何人かいるけど…。  透さんとセフレなんて…嫌だ。  ―― え?  セフレが嫌なのか?…… 俺。 「俺は……」  好き…… ? 透さんを? 「いやいやいやいや!」  男を好きになるのは、俺は…… ありえない!  今まで、女の子しか好きになった事な……、  ―― え?  俺、今まで本気で相手を好きになった事って、あるのかな。  何人か、ちゃんと付き合った事はあるよ。勿論ちゃんと好きだったよな?  うん、好きだったよ、ちゃんと! ……長続きはしなかったけどさ……。  だから透さんを好きになるなんて…… ありえない。 透さんのことは、ただ……、憧れてるだけだから……。  憧れと恋愛は、違うよね? 「はぁ~」  考えても、分からないよっ。  ぶんぶんと、首を横に振って立ち上がる。  ふと、造り付けのクローゼットにはめ込まれている鏡が目に入った。  Tシャツの襟ぐりを、肌蹴させると、鎖骨のすぐ上に透さんの付けた赤い痕が、まだ残っている。  そっと指先で、赤い痕をなぞってみると途端に、あの夜のことが、頭を過ぎる。  熱の籠った眼差しや、濡れた唇。 何度もキスをして、咥内で縺れ合う舌や吐息。  汗ばんだ肌の上を、滑る指先。  思い出しながら、透さんに触れられた通りに自分の指を辿らせる。  目を閉じると、鮮やかに蘇る、その光景。 「……っ」  下半身に熱が集まり始めたと思ったら、あっと言う間に勃ってしまった。
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