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―― 迷う心とタバコ味の……(14)
「直くん、朝ご飯食べれる?」
透さんはベッドから降りると、Tシャツの上に黒いニットを頭から被るようにして着ながら、そう訊いてきた。
「あ、はい、俺も朝ごはん作るの、手伝います」
と、俺もベッドから降りたんだけど……。
「あれ?」
足腰に力が入らずに、床にへたり込んでしまった。
「ああ、無理しなくていいよ、多分身体は疲れてるだろうから、直くんは、ゆっくりしてて」
クスクス笑いながら、俺の身体を支えてくれて、またベッドに座らせてくれる。
「すみません……」
この前みたいに、後ろはそれ程、痛みは無いけど、腰がだるい感じがする…… つか身体のあちこちがだるいかも……。
「ご飯できたら呼ぶから、それまで寝てていいよ」
そう言いながら、俺の頬にキスを落とし、頭に手を置いて、クシャクシャに撫でる。
透さんは元気そうだなぁ……、俺の方が若いのにな。 でも、身体が言う事をきかないから、大人しく休んでおく事にした。
一日中パジャマのままで、二人でDVDを見たり、透さんの作ってくれたご飯を食べたりして、ダラダラとのんびり過ごした。
時々、透さんのスイッチが何かの拍子に入っちゃって、リビングのソファーに押し倒されたりして……。
「直くん……、今夜も泊まる?」
そう訊かれた時は、少し驚いたけど。
でも、俺とこうして一緒にいてもいいと、少しでも透さんも思ってくれてるってことが嬉しかったから、そのままその日も泊まることにした。
そして、翌日30日の夕方、車で俺のマンションまで送ってくれた。
次に逢う時もまた、透さんの家に泊まる約束もしたりして、そして今度はちゃんと携帯の番号とアドレスを交換した。
透さんは、明日から実家で何か用事があるらしくて、俺も明日から啓太と地元に帰るから、次はいつって、細かい約束はしてないけど、今度は携帯で連絡がとれるんだ。
―― はぁ~、しかし2泊した間に、何回ヤッたか覚えてないとか……、自分でも呆れるんだけど……。
翌日、重い身体に鞭打って、啓太と電車とバスを乗り継いで地元に帰った。
啓太と別れて、家に帰ると、もう姉ちゃん夫婦も来ていて、すでに賑やかだ。
除夜の鐘を聴きながら、近所の神社に家族で初詣に向う。
毎年恒例の、普通の新年を迎えて。
「明けましておめでとう」
と、家族で挨拶をして、お屠蘇を呑んで、テルさん(親父の奥さん)の作ってくれた御節を食べて、夜中の3時頃には布団に入った。
親父は「初日の出を見てから寝る」とか、言ってたけど、日の出を待てずに炬燵で寝てしまうのは、毎年同じ事。
俺は、たっぷり昼過ぎまで寝て、
姉ちゃんに、「元旦から寝坊してたら、今年1年寝坊ばっかりするよ!」と、叩き起こされるのも毎年同じ。
クリスマスイブの、あの夜から俺の身に起きた、非日常的な変化が嘘だったように思えるけど、憧れだった、透さんとの事は夢じゃなくて……。
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