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―― 迷う心とタバコ味の……(16)
そして翌日、1月2日の朝。
「直くーーん、啓太くんが来てくれてるよー」
一階から、俺を呼ぶテルさんの声で、目が覚めた。
―― ん…啓太? なんで啓太? 俺、眠いんだけど?
ドカドカと、喧しい音を立てながら、階段を上がって、俺の部屋に近づいてくる。
「おい、起きろよっ」
――っんだよ、うるさいな、いつも啓太は!
「もう、10時だぞ起きろよ」
「…… あ?」
もう朝か……。 眠い目を擦りながら起き上がると、部屋のドアから啓太が顔だけ覗かせて、「早く起きろよっ」って呆れた顔してる。
「…… んだよ、何か約束してたっけ?」
そう言いながら、よろよろとベッドから下りて、スエットの上下を脱ぎ捨てて、のそのそと着替える俺に、啓太は、さも呆れたと言わんばかりに、溜息を吐いている。
「なんだよー、いつも2日は、お前んちでトランプ大会だろ?」
当たり前のようにそう言って、偉そうに腕組みなんてして、なんかムカつく。 しかも、何、やる気満々で、なんだろ、この態度。 だけど、本当に今年もするのかよ……。
トランプ大会って、大富豪なんだけど、毎年正月に俺の家族は、なぜか大富豪をやる事になっている。それで、何故か啓太は小学校の頃から、家族でもないのに参加する。
しかも、この大富豪、5回やって、最後にド貧民になった人は、罰ゲームを科せられる。
ちなみに一番強いのは、なぜか姉貴とテルさん。
去年の罰ゲーム対象者は、啓太だったんだ。なのに、何故また今年も自分から罠にはまりにくるのか……。その気持ちが解らない。
もしかして、啓太ってMなのか? そうなのか? こいつ本当は、姉貴やテルさんに虐められて喜んでるのか?
昨年の罰ゲームは、姉貴の買い物のお供だった。
女ってなんであんなに買い物好きなのかって位買い込んで、啓太は両手に紙袋いっぱい持った上にカートまで転がしながら帰ってきた。
しかも、紙袋のほとんどが、福袋だったんだ。
福袋を買う為に、啓太が長蛇の列を並んでる間、姉貴とテルさんは優雅にお茶していたらしい。
きっと今年もそのパターンに違いないんだから、絶対やりたくない。
なのに、なぜ今年もここに来るんだ、啓太。お前は完全にカモなのに!
「なあ、啓太ってさぁ、もしかしてMっ気あるの?」
「はあ? 何言ってんだよそれ、なんの話だよ? 馬鹿じゃねえの?」
俺は、至って真面目に言ったのに、啓太に、頭をげんこつで殴られた。
「いってえな!何すんだよ、変態」
「いいから、早く来いよ。 テルさんがお雑煮温めてくれてるからよ」
そう言って啓太は、痛い頭を摩っている俺の手を掴むと、引っ張るようにまた階段をドカドカと下りていく。
「待てよ、引っ張るな! 危ないからっ」
引っ張られながら、抗議してみたけど、啓太はそんなことお構いなしに、1階の居間へと入って行った。
「いいから、いいから。 ほらここ、入りなよ炬燵」
炬燵布団を捲って、座布団をポンポンと叩く啓太。…… って、誰の家だと思ってんだよ、こいつ!
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