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―― 迷う心とタバコ味の……(17)
啓太と一緒に居間の炬燵に入って、お節料理をつまみながら、何気につけっぱなしのテレビの正月番組なんかを、ぼんやりと眺めていたら、
一歳の弟が、よたよたと歩いてきて、俺の背中にぴたっともたれてきた。
「実 、歩くの上手になったな」
頭を撫でてやると、にかーっと笑うのが可愛い。 膝に座らせると、甘ったるい匂いが、ふんわりと漂う。
「お前、なんか良い事あった?」
俺が実をあやして遊んでいるのを、眺めていた啓太が、不意によく分からない質問をしてくる。
「…… なんで?」
「なんかさー、大晦日に会った時も思ったんだけど、なんとなく? 表情が柔らかいって言うか……、よくわかんねぇけど」
変なやつだなぁ……。 表情が柔らかいって何? 正月休みで寝過ぎてふやけてるってこと?
「何それ…… ? 実家に帰ってきて、のんびりしてるからと違う?」
自分では、何か変わったとこあるような気はしないけど……。
「なんかさ、恋してるような感じっての? いや、わからねーけどな」
そう言われて、ちょっとドキっとする。 変化があったとしたら、心当たりはあるから。
「啓太に恋してる雰囲気とか、分かるわけねーじゃん」
冗談言って誤魔化そうとしてみたけど、啓太って、昔から意外に鋭いとこあるんだよな……。
「なぁ、啓太」
だから、ちょっとだけ気になってる事を、啓太に訊いてみることにした。
「何?」
「あのさ、付き合ってる彼女がさ、元彼の写真とかを部屋に飾ってるのって、どうしてだと思う?」
こないだ、透さんちに二泊した時に、あの彼女と2ショットの写真が、まだリビングに飾ったままだったんだ。
歯ブラシは、無くなってたけど、化粧品とかは、まだあったし。
とりあえず、『彼』ではなくて、『彼女』って事にして訊いてみた。
「はぁ? 何それ? ありえねーだろ?」
やっぱ、そうだよなぁ。 俺も、そんなのありえないと思うんだよなぁ。
と言うか……、俺、はっきりと透さんと付き合ってるって言える関係じゃないし……、なら透さんが俺に気を遣うことなんてないから……。
別に、好きな人の写真を飾っていたりしても、俺が文句言うことじゃないし。
忘れ物の化粧品だって、まだ好きなら……、それを理由にもう一度会えるかもしれねーじゃん。
―― あ…… あれ……? なんでこんなに胸の奥が苦しいんだ? あれ?
「それってさ、うっかり片付けるの忘れたなんてレベルの問題じゃねえし、つーか、お前やっぱり彼女できたの?」
「あーー、いや、俺の話じゃないって言うか…… 俺の話っていうか……」
「なんだよ?ハッキリしねえやつだな」
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