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—— 迷う心とタバコ味の……(31)
「なーーお、呑んでるか?」
突然、俺とゆり先輩の間に、啓太が割って入ってきた。
「あ?うん、呑んでるよ」
啓太の吐く息が酒臭くて、頭を後に逸らしたのに、啓太はお構い無しに、ずずっとその顔を近づけて、俺の耳元で囁いた。
「あんま、ゆり先輩を独占すんな」
「え?」
「前に忠告しただろーぉ?」
そういえば、そんな事言われたな……。
「わかってるってば」
「ホントーに? ホントに分かってんの?」
啓太のやつ、かなり酔ってるみたいで、なぜだかしつこく念を押してくる。
――『ゆり先輩のことを好きな連中に、目ぇ、付けられてたらヤバイと思ってさ』
啓太はあの時、俺のことを心配してそう言ってくれたけど、ただ一緒にいるだけで、恨みとか買ったりするかなぁ?
女の子が話しかけてきてくれて、それで気が合って……、仲良くなったとして、何かいけない理由でもあるんだろうか?
そんなことを考えていると、そろそろ飲み会は終わるらしく、少しずつテーブルを片付けられているのに気が付いた。
俺はあんまり酔ってないし、準備も参加してなかったし、トイレに行ってから手伝いに行こうと、酒臭い啓太を避けて立ち上がった。
「俺、ちょっとトイレ……」
「んぁー、いってらっさいー」
もう既に出来上がっているらしい啓太は、俺と入れ替わりに、俺の座ってた席に座り込んだ。
いつの間にか、ゆり先輩はカウンター席から移動したらしく姿が見えない。
店の奥のトイレに向うと、トイレの前に長い列が出来ていた。 女用と男用と別れてるけど、どちらも混んでいる。 女の子も、男用の方にも並んでいて、収拾がつかなさそう。
―― 店の外に出て探すか……。
店の入っているビルの中のどこかに、トイレがあるかもしれない。と、思って、出口に向かいかけると、後から腕を掴まれた。
「直くん、トイレならこっちにもあるよ」
振り向くと、腕を掴んでるのは、ゆり先輩で、俺をカウンターを挟んで、トイレと反対側の店の奥へと引っ張っていく。
「ここ」
そう言って開けたドアには、スタッフルームと書かれている。
「え、いいの?ここ入っても?」
「うん、大丈夫だから、入って」
ゆり先輩は、なぜか慣れているらしくて、先に中に入っていく。 俺も続いて中に入ると、小さな控え室みたいになっていて、椅子と机と小さいクローゼットが置いてある。
「ここよ」
入り口ドアから見えない位置にトイレのドアがあった。
「お、助かる」
遠慮なく入らせてもらって、用を足してトイレから出ると、ドアの前でゆり先輩が待っていた。
「あれ?ゆり先輩も、トイレ?」
訊いた途端、ゆり先輩に体を押されて、トイレの中に逆戻りさせられた。
「え?え?」
トイレに入ると、後手に鍵をかけるゆり先輩。 まさか、ここでヤルってか?
「あ、あのー、そろそろ店の片付けしてるみたいだったし、手伝わないと」
その後でゆっくり二人きりになれば良いんだし?って思うんだけど。
「いいじゃない、ちょっとだけ、ここでサボろうよ」
そう言って、大きくて柔らかい胸を俺の胸に押し付けるようにして、抱きついてくる。
―― はぁ~、柔らかい~、やっぱり女の子って気持ちいい。
しかし大胆だな。こんな所で…って、ゆり先輩は、なんでこのトイレの事知ってるんだろ?
「ねえ?ゆり先輩って、ここにトイレある事、なんで知ってるの?」
「ああ、桜川くんと前に付き合っていた時、よくこの店にも来たからね」
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