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第3話

「僕は正直、こんなに長く君と一緒にいることになるとは思っていなかったよ」 ベッドで愛し合った後、夕飯を軽く済ませた八城と神崎は、黒革のソファに腰掛け 例の日本酒を楽しんでいた。 「最初の頃は喧嘩ばっかりだったもんな」 「うん。…二人とも、だいぶ変わったよね」 「だな」 まさか二人の愛がこんなにも大きく育つなんて、付き合った当初は想像もしなかっただろう。 時にはすれ違い、時にはぶつかり、そうやってお互いを知っていった。 「きっと出会わなかったら、違う人生があったんだろうね」 「…後悔してる?」 「ううん。でも、周一はもともと…ゲイじゃないし」 「自分と出会わなければ、今ごろ誰かと結婚してたんじゃないかって?」 「うん…」 それは神崎にとって、ずっと心に引っかかっていたことだった。今まで聞けなかったのは、答えを知ることを恐れている自分がいたからだ。 「確かにそんな人生も幸せなのかもしれないな」 「…うん」 「でも今の俺には、お前がいない人生なんて考えられない」 まるで何でもないことのように八城は言う。 もうすでに心は一つに固まっているに違いない。 「これだけ長く一緒にいるんだからさ、家族も同然だろ?」 「周一…」 まるでプロポーズみたいだ、と神崎は思った。 誰かに愛されることが こんなにも幸せなことだなんて、七年前の彼は知りもしないだろう。 「君と出会えて、本当に良かった」 「きっと運命ってやつだろうな」 酔っているのか、八城は突然柄にもないことを言い出す。 思わず笑い出してしまいそうなセリフだが、この時ばかりは神崎も “運命”という不確かなものを信じるのも悪くない気がした。 「そうだね。きっと運命だ」 神崎は手に持っていたグラスをローテーブルに置き、恋人の肩に頭を預けた。 机の上には真紅のバラが生けられた花瓶と、高級感のある酒瓶。さすがに花束には驚かされたが、この日を生涯忘れることはないだろう。 「…なぁ、赤バラの花言葉って知ってるか?」 「ううん。知らない」 八城は甘えてくる男の右手を取り、指を絡めてそっと囁いた。 「“あなたを愛しています”」 【花*束】

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