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雨の先・・・そして 20

「ちょっと!なに手握り合ってんの?気持ち悪いよ!」 「はあ?」 佐伯と俺が同時に声をあげる。 「かわいい正巳ちゃんが戻ってきたんだ。いいだろ、このぐらいしたって。」 「佐伯、何いってんだよ!正巳ちゃんもやめてくれ!」 「さては・・・まだ酔っ払ってんだな。 末次は飲みにいった割にはすっきりしてるけど、お前の顔むくんでひどいよ。」 「うるさい、山田!お前なんか何もしてないくせに、むくんだような顔しやがって!」 「失礼な!そんなことより二日酔いにはフルーツだよ?フルーツパフェ食べにいかない?マンゴーの!」 パフェと聞いて内蔵がぐっとせりあがる。 「・・・いや・・・パフェなんか無理。」 「気にせず、山田一人で食ってこいよ・・・」 「なんだよ・・・二人とも。もう明日は帰るんだよ?休みに寝てるなら札幌といっしょじゃんか。」 そうだな、熱いシャワーでも浴びて、沢山水をのんで何か食べれば、いやビールで迎え酒でもすれば落ち着くかもしれない。 「あのさあ・・・」 佐伯と山田が俺を見る。 「山田パフェ食ってこいよ。俺、もう一回海見たいな。 それでちゃんと予約して昨日いきそびれた店にみんなで行かないか?」 「えへへ」 「なんだよ・・気持ち悪いな・・山田。」 「佐伯~。なんと俺もう今晩予約してるんだ!そこの店。」 「まじかよ!昨日のドンクサ男とは別人じゃんか。」 「人数は3人にしてるけど・・・末次どうする?三田呼ぶ?」 あいつも二日酔いだろうな。でも、昨日の、いやこの何年かのやり直しを今晩ならできるかもしれない。 「そういうよけいなことするのって佐伯の役割なんじゃないの?山田。」 「たしかにね~」 「勝手に人を余計なことする人間にするなよな。じゃあ2:00にここに集合な。 それまでに復活しとくから、山田はさっさと女が食うもんみたいなのを食ってこい!」 ロビーに差し込む陽射しは眩しくて、何もかもを白く染めている。 その太陽を受けた海はきっと見たことのないような色をしているはずだ。 それを目にすれば、自分が昨日と違う人間になれたことを本当に実感できる。 ひさしぶりに自分の体の隅々までが自分のものだという感覚をとりもどした。 しょうがない・・・・か たったこれだけを受け入れるのに随分時間がかかった・・・。 「シャワーでもかぶって、水分とって復活するか。今日は絶対ウコン飲んでからたっぷり飲んでやる。」 「そうだな。」 「末次?」 「なに?」 「今晩ちゃんとやりなおしができる。お前ここに来てよかったな。」 佐伯はそう言って、俺の膝をぽんとたたいて立ち上がった。 「友達って、そういうもんだろ?」 「うん・・・」 エレベーターに向かう佐伯の背中を見ながら思う。 しょうがなくても、友達には戻れる。今度は三田の顔が見える場所にだって座れる。 けだるい自分の体を持ち上げて歩き出そう。 きっと明日の自分はもっと自分らしくなっているはずだ。 そうだろ?三田。 三田の番号を呼び出してタップする。 『あ、俺、正巳。今日の夜なんだけど・・・』 END

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