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第13話

 車を駐車場に残しタクシーを拾うと、咲良組本部へと向かった。  子供の頃から何度となく門を潜ったそこは、吉良の顔を知っている者も多く、すんなりと若頭である咲良智影(ちかげ)の居る部屋へと通された。  一見ヤクザには見えない線の細い男は突然の友の来訪に微笑を見せた。 「久しいな」 「お前のところは何時からヤク解禁になったんだ?」 「何の話だ?」  持って来た鞄を側近の一人の前へ置く。側近は鞄の中の粉を確認すると智影に頷いた。 「何処でこれを?」  吉良は無遠慮に幼馴染に近付くとポケットからメモ用紙を出した。 「この場所を根城にしている連中からだ」 「お前が拾ったのか?」 「んな面倒な事、俺がする訳ねぇだろ。妹を輪姦(まわ)された男が復讐の為に盗んで来たんだよ」 「それで俺にどうしろと?」 「お前のシマでの事だ。お前が始末つけろ」  そこまで話した所で吉良の携帯が鳴った。 「俺だ。ああ。分かった。今度何か奢る」  必要最低限の会話で携帯を切り、智影へ振り返ると含みのある笑みを浮かべていた。 「何だよ」 「お前のそんな顔、久し振りに見ると思ってな」 「あ?」 「差し詰め、ブツを盗んだ男が連れて行かれでもしたか?」 「……ああ」 「それは大変だ。早く迎えに行かないとな。切羽詰った人間は何でもするぞ」 「お前、楽しんでないか?」 「まさか。お前の大切な奴が酷い目にあっていないか心配している」 「なら、車貸してくれ」 「ああ。好きに使え」  吉良は車だけを借りるつもりだった。  だが……。 「若いの貸してくれるのはありがたいが、何でお前まで付いてくるんだ?」 「俺に恥をかかせた連中に灸をすえる為だ」 「若頭がでしゃばる案件じゃねぇだろ」 「お前が絡んでなければな」  ふふっと楽しげに笑う智影に眉を顰め、吉良は口をへの字に曲げる。 「もう若くない。無茶はしねぇよ」 「そう言う事じゃない」  やはり楽しそうに笑う智影に吉良は窓へ顔を背けた。  そうこうしているうちに車は原木に教えられた住所へと着いた。  S駅近くにある雑居ビルの扉は、咲良組の幹部の名前と顔で開かれ、拍子抜けする程簡単に拉致部屋へ辿り着けた。  雑然とする部屋には強面のチンピラが十人。手足を縛られ椅子に座らされている男を取り囲むように立っていた。 「何だお前等ぁ」  突然現れた吉良達に対し、威嚇するチンピラを智影の側近の一人が殴り飛ばす。  張り詰めた空気を割るように、智影は前へ出た。 「俺は咲良組若頭の咲良智影ってもんだが、何で俺が来たか分かるよな?」  若頭と言う言葉にざわつくチンピラ共をよそに智影は部屋の奥へ進んで行き、袋叩きにされボロボロとなっている男の前で立ち止まった。 「末端の更に下っ端とは言え、躾が行き届かなくて悪かった」  連れて行けと合図を貰い、吉良は男へと駆け寄る。 「大丈夫か?」  殴られ過ぎてしゃべれないのか、男は僅かに頷くだけだった。 「こいつを病院に連れて行く。俺の分も頼むぞ」 「ああ。きつめに教育しておく」  震えるチンピラを尻目に、吉良は男と共にビルを出た。

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