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第1話【ご機嫌よう】「YES以外受け入れるつもりは無い。 」
10月8日土曜日、14時。
朝比奈家へ電話をかけてみれば スリーコールで受話器が持ち上げられた。
学校の授業は午前だけのはずだが友人たちと遊ぶ約束もせず、8歳年下の義弟は自宅で宿題を片付け読書をしていたようだ。
僕の声を聴き少しだけ驚いてそして、嬉しそうに『海輝』と返してくる。
「錦君、久しぶり。」
これから続く言葉に対して、彼が何らかの期待をする事を僕は期待する。
10月16日は絶対予定空けといてよ。
日曜日だから学校はお休みだろ?
即答で色よい返事を期待したが予想外な事に間が空き『何故』と問いかけてくる。
何て事だ。僕が聞きたいのは質問ではなく「Yes」か「No」なのだ。
「錦君、僕はねハイかイイエのどちらかで答えてほしいんだ。お返事は?」
などと選択の余地を残しているようで事実YES以外受け入れるつもりは無い。
錦は『質問位は許せ』と溜息をつく。
小学生相手に溜息をつかれる大学生ってどうなのだろう。
まるで僕の方が駄々をこねているようではないか。
―――『俺にも予定が有る。だからお前の事情を聞き優先順位を変えようと思った。』
「錦君が僕以上に優先させる予定なんて有るの?イエス以外の 返事に海輝お兄さんびっくりだよ?」
君の予定とやらを詳しく教えてくれ。
―――『5時に起床し、着替え洗面朝食を6時には終わらせる。6時からは7時まで予習をし、7時から7時30分までは庭の鯉の餌やりと鉢植えの菊に水をやる。それが終わったらC地区運動公園へ出かけ8時から10時まではウォーキング。移動時間を15分と仮定し10時15分から11時30分まで公園南口より斜め向かいのF公民館で行われる土偶展示会を見た後一度帰宅し汗を流し昼食を採る。引き続き午後の予定だが13時から15時までC地区中央図書館前で開催される『超★おじじ様ず』のハロウィン演奏会を鑑賞しその後図書館へ入館。カウンターにて本を返却し、読書をする予定だ。帰宅は17時になる。以上、質問はあるか?』
「……わお」
これが小学生の休日の予定なのか。
図書館では何の本を借りるのだろうか?
錦の趣味は知らないが、イメージ的に万葉集とか純文学とやらを好むイメージが有る。
意外にも海外詩集や推理小説とかも好みそうだ。
秋の甘く哀愁漂う風景を背に窓際で長い睫を伏せて、小難しい本を静かに読む彼の姿は繊細美の極みと言っても良い。
錦は、観賞価値の高い人形の様にとても綺麗な少年だ。
しかし返された言葉はイメージとはずいぶんとかけ離れていた。
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