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第2話【時の経つのを忘れて】「どうやら僕は義弟の事を知らな過ぎたようだ」

―――『現在借りている【神秘の土偶】シリーズで未読の本が四冊あるので、貸出されていなければ第9巻【男性土偶の神秘】と第10巻【激論!埴輪派かそれとも土偶派か】と第11巻【私が見た世界の土偶達】第12巻【魅せる妖艶なる土偶の世界】を借りる予定だ 。』 「土偶…」 しかも、シリーズもので12巻まで出版されているらしい。 ―――『海輝も興味があるのか?それなら今度じっくり語ろう。』 何を語ろうと言うのだ。 ところで何故土偶? 土偶を真剣な顔で見つめる美少年を想像してみるがシュール過ぎる。 駄目だ噴く。 あの土偶特有のふくよかな体つきに母性でも見出したのか。 君のお母様との共通点は性別しかないよ。 「多分貸出されていないと思うよ。」 この子の趣味ってどうなっているのだろう。 君以外に誰がそんなもの読むんだい? そう言おうとして止めた。 土偶の魅力は理解できずとも趣味好みは千差万別であることは理解できている。 ―――『そうだろうか。』 何故疑問に思うのだろうか。 再度噴き出しそうになるのをこらえる。 貸出されていないと誓って良い。 仮に貸し出されていたらどうするのか些細な好奇心を口にすれば、受話器の向こう彼は恐らく困った様な顔をしている。 勿論答えに窮したわけではなく、読みたかった本が読めない状況を想像しての表情だ。 ―――『……もしも貸出されていたら【ニュウドウカジカの素顔~俺は醜くないユーモラスなだけだ~】と【深海生物の闇】と【シーラカンスのロマンス】でも借りようかと考えていた。ニュウドウカジカだが、醜くはない。あれは愛嬌だ。』 「ニュウドウカジカ…君、そう来るのか…」 つまりあれだブロブフィッシュの事だ。 検索したら最後、グロ画像と勘違いしてしまいそうな姿のオンパレード。 動物保存協会より『世界で最も醜い動物第一位』になった同情すべき深海魚だ。 何故同情すべきかと言うと太陽光も届かず、海水密度に水圧、塩分濃度何もかもすべて過酷な環境に生きる深海生物は異形ともいえる形態が多い。 そんな中でブロブフィッシュが最も醜いと言うのは嘘だろうと言いたいからだ。 不気味さならばスターゲイザーフィッシュがダントツだし、ダイオウグソクムシとかイカムシとかの方が生理的嫌悪が湧く。 縫いぐるみ化したブロブフィッシュは「キモかわいい」と人気を博したが、ダイオウグソクムシやイカムシは縫いぐるみ化しても可愛さの欠片もない。 ―――『美醜とは個人の観点により異なるものだが、俺はミツクリザメの方が不気味な見目をしていると思うし、オニイソメの方が醜悪だと感じている。 加えるならワームが付く名の深海魚全般は嫌悪する。蠕虫同様見苦しく不快だ。絶滅しても同情しない。』 錦は深海生物にも興味があるらしく暫く、深海の魅力を語っていた。 取り敢えずここまでで分かった事。 …どうやら僕は義弟の事を知らな過ぎたようだ。 *********************** ◇10月16日の誕生花 紫苑:追憶、ご機嫌よう、君を忘れず、遠方にある人を思う、 時の経つのを忘れて、優美、繊細愛の象徴 ***********************

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