9 / 55
『-holic ―恋人がサプリ―』(1)
透さんのマンションのエレベーターの中で、階数表示が上がっていくのを、待ちきれない思いで見上げる。
ああ……早く14階に着かねえかなって、思わず足踏みをすると、胸のところで抱えた茶色い紙袋がカサリと音がした。
紙袋の中には、キウイ。
「ちぇ、啓太のやつ、こんなに要らないって言ったのに」
ここに来る前に、俺が出掛けようと部屋から出たら、ちょうど一階下に住んでる啓太がやってきた。
『なんだ、出掛けるんか?』
『うん、ちょっと透さんちに……』
『ふーん、じゃちょうど良かった。これ、持ってけよ』
と、渡されたのが、このキウイの一杯入った紙袋だった。
こんなに要らねえって言ったんだけど、
『お前最近、なんか疲れてるみたいだし、肌もなんかカサカサだし、きっとビタミンC足りねえんだよ。これでも食っとけ』
『ちょ、こんなに要らねえよ、今から透さんち行ったら、きっと泊まるし……』と、もにょもにょ言ってたら、
『じゃあちょうど良いじゃん、透さんと食べろ』
と言って、啓太はキウイの入った袋を、俺に無理やり押し付けて行ってしまった。
――何が、ビタミンCが足りないだよ! アイツ、俺のかーちゃんかよ!
紙袋の口の隙間から、袋一杯に詰め込まれたキウイが見えて、口の中がなんだか酸っぱい気がしてきた。
透さんは、ここんとこ泊まりの出張ばかりで、なんだかんだともう、2週間以上逢えてない。
だけど、俺がバイトを終えて帰ってきた時にメールがきたんだ。
――今日、久しぶりに帰れるから逢えないかな。って。
勿論、即効OKの返信した。
もう少し事務所で仕事してから帰るって言ってたから、じゃあ透さんの部屋で待ち合わせってことになったんだけど……。
一階のエントランスで呼び出しても、応答が無かったから、多分まだ帰ってない。
本当、忙しい仕事だなぁ。
だいたい、あの、透さんの会社の社長……、神谷さんって言ったっけ……。社員をこき使い過ぎなんじゃねえのかな。
と、何度か会った事のある、神谷社長の顔を思い浮かべた。
年は多分、40代前半くらいかな。
俺の親父よりちょっと若いくらいだから、大人なのは大人なんだけど、すんげえカッコ良くて、ああいうの、何て言うのかな。
『ダンディ』って、あんな感じの人のこと言うのかな?
「……だけどさぁ~~」
透さんの部屋の前で、ポケットを探って部屋の鍵を取り出しながら、ボヤく。
――なぁーんかムカつくんだよな……。
ともだちにシェアしよう!