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『来年も再来年も、ずっと……』(18)
「もしかして、透さんもネクタイ? しかも同じ店で!」
「そう、ネクタイ。だけど同じ店とは驚いたね」
「あはは、本当偶然すぎる。ね、これ、せえの! で、一緒に開けよう」
プレゼントを交換して、二人で同時に同じリボンを解いて、包みを開けていく。
透さんが選んでくれたのは、薄い黄色に控えめなチェックの柄が入ってる、明るい感じのネクタイ。
「直くんは紺色のレジメンタルを一本持ってたけど、就活用に何本あってもいいかなと思って。その色、直くんに似合うよ、活動的で明るいイメージがする」
「ありがとう! 俺、このネクタイで就活頑張る!」
俺が透さんに贈ったネクタイは、ごくごくシンプルなクレストの臙脂色。
まだ大学生の俺には、あんまり高価な物なんて買えないし、ネクタイなら何本あってもいいかって思ったんだけど。
「もっとお洒落なのにしたかったんだけど、俺、ネクタイって、どんなのがいいか分からなくて」
結局シンプルな色と柄のものにしたんだ。
「直くんが一生懸命選んでくれたと思うと、余計に嬉しいな」
似合う? って、バスローブを着てる胸元に当ててみせる。 透さんは何でも似合うと思う。たとえバスローブにネクタイ合わせたとしても!
「こうして、毎年直くんと一緒にクリスマスを過ごせるだけで俺は幸せだよ」
——ありがとう。と、透さんは椅子から腰を浮かして、ルームサービス用にセッティングした小さなテーブルを挟んで、唇に軽くキスをくれた。
改まってそう言われると、ちょっと照れる。俺も透さんと一緒に毎年クリスマスを過ごせることが、すごく幸せなんだけど。
「両親が離婚してからずっと、クリスマスがこんなに楽しいなんて忘れていたからね。クリスマスだけじゃなくて、毎日が楽しいってことを思い出させてくれたのは、直くんなんだよ」
そう言って、透さんは本当に幸せそうに笑ってくれる。
ああ……そうか、そうだったな。
透さんは、家庭の事情から、一生続く愛なんて信じていない時期があったんだ。真剣に人を好きになったことがないって言ってたっけ。
しかも、今は、俺と恋人関係になったせいで、実家にも帰れなくなってしまった。
俺と一緒にいるだけで、透さんが幸せに思ってくれていることが、俺にとってもすごく幸せなことだって、今、改めて思った。
俺は、将来のことなんて、今までちゃんと考えたこともなかったけれど……。
これだけは、はっきりと言える。
「来年も再来年も、これからもずっと一緒だよ」
俺が、もっともっと、毎日が楽しいと透さんに思わせてあげたい。
これから、大学を卒業して、就職して、それで透さんに守られるだけじゃなくて、俺も透さんを守れるように、もっと精神的にも大人になりたい。
ずっとこれからも、透さんの隣に居られるように。
「透さん、明日休みなんだよね?」
「そうだよ。珍しく休みを貰えたから」
「じゃあ、明日はチェックアウトしたら、帰りにあの公園に行こうね」
「そうだね。今夜は時間なくて行けなかったし」
——毎年クリスマスには、あの公園で逢おう。
それは、俺たちの約束だから。
時が経っても最初の頃のときめきを忘れないように。
そして、来年も再来年も、ずっと一緒にあの場所から始めるんだ。
「透さん、お正月は何か予定ある?」
「実家には帰れないから、ずっと暇だよ」
「じゃあ、大晦日は恒例のみっきーのお店の年越しパーティーして、その帰りに初詣に行こう」
「うん。俺もそのつもりにしていたよ」
年末年始の予定を立てながら、俺たちはもう一度テーブル越しにキスをする。
神谷社長が用意してくれたクリスマスケーキは全部食べきれなかったけど、甘い甘い夜はまだ始まったばかり。
――――――――――
——クリスマス編2017
『来年も再来年も、ずっと……』
END
2018/01/13
+ to be continued → →お正月編
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