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 『目は口ほどに……』(1)

 目は口ほどに物を言う……と言うけれど、  素直な君の瞳は、いつでも俺に正直な気持ちを語りかけてくれる。  ――でも……、それだけじゃない。  街を一緒に歩いていて、微かに触れ合う指先や、距離を縮めた肩の温度にも、  今、何を言いたいのか、したいのか、分かってしまう。  だから、人目を気にしながらも、外気で冷え切った指先をそっと握り、コートのポケットに誘い入れる。  少しだけ俺の目線よりも下で、直くんの顔が、ほんのりと赤くなる。 (――いいの? こんな場所で……)  ほら……君が今、俺に何を言いたいのか、分かってしまうよ。  俺は、ポケットの中で絡めた指をキュッと握りしめる。 (――大丈夫だよ、誰も見てないから)  そんな俺の気持ちも多分、直くんには伝わっていると思う。  ほら、さっきよりももっと顔が赤くなった。  そんな君を傍で見ている時が本当に幸せで、俺は自然と頬が緩んでしまうんだ。  毎年の恒例になりつつある、光樹先輩の店で年越しパーティをして、その帰りに寄った近所の神社で初詣。  引いたおみくじは、俺は吉で、直くんは中吉だった。 「おみくじって、良いのは結んで、悪いのは持って帰って、忘れないようにするのが本当なんだって」  そう言いながら、直くんは読み終わった中吉のおみくじを、綺麗に折りたたむ。 「中吉なら、悪くないんじゃないの?」 「うん、でも、ちょっと反省しないといけないことが書いてあったからさ」  そう言いながら、綺麗に折りたたんだおみくじを、無造作にジーンズの後ろポケットに押し込むところが、直くんらしい。 「反省しないといけない事って?」 「俺、物をすぐ失くすの。ちゃんと整理整頓しろって書いてあったのと……」  直くんの応えに苦笑しながら、「それと?」と訊き返す。 「恋愛、我が儘が過ぎると、失くすって……」  そう言いながら、寒さで悴んだ指を温めるように擦り合わせている。  俺は笑いながら、その手をそっと両手で包んで、息を吹きかけた。  白い息がふわりと広がると、直くんは少し驚いたように大きな目をもっと大きく見開いて、すぐ真っ赤に頬を染める。  ――可愛いな。 「直くんは、ワガママなんかじゃないよ」  悴んだ手を引き寄せて、またコートのポケットの中へ誘って、そのまま歩き出すと、 「と、透さんっ」  俺に引っ張られて直くんが、少し小走りに従いてくる。 「ほら早く、帰るよ」 「え? 初日の出まで待たないの?」 「初日の出なら、部屋からでも見れるよ」  直くんの少し焦ったような表情に、俺は笑いかけた。  直くんは、今年の3月で21歳になる。  4月からは、大学4年だ。  出逢った頃は、まだ18歳だった直くんは、背も少し伸びて、体格は今もスレンダーだけど、あの頃よりは逞しくなった。  ヤンチャで無鉄砲なところがあったけど、そういうところが薄らいで、子供っぽさが抜けてきたと思う。  就職活動も本格的にやらなければいけない時期が訪れて、誰しも将来を考えて、少しずつ心が成長してくる。  最近の直くんは、自分が心配するほど、ワガママなんかじゃなくて、どちらかと言えば、俺に少し遠慮をするような態度を取るようになってきた。  例えば、俺の仕事が忙しい時、前も我慢しようとしてくれているのは、分かっていたけれど。  それでも俺が、大丈夫だからと言えば、満面の笑みで『え? ホント? いいの?!』と、手放しで喜んでくれていた。  だけど最近は、それが少し変わってきた。  俺のことを思ってくれているのは、態度から分かり過ぎるくらい分かるんだけど。  ――少し寂しい。  そんなことを思ってしまう俺の方が、よっぽどワガママなのかもしれない。

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