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 『Feliz año nuevo!』(1)

「シンコ!(5) クワトロ!(4) トレス!(3) ドス!(2) ウノ!(1) フェリースアニョスヌエボ~!」  皆でクラッカーを鳴らし、声を揃えて言いにくいスペイン語で新年の祝う。  そして皆、いっせいに、瓶の中へライムを搾り落として、コロナビールをラッパ飲みする。 「だれだー? 今、噛んだやつは?! 直か?」  と、一気に瓶の半分まで飲み干したみっきーが言う。 「直に決まってる」と、桜川先輩。 「直しかいねえ」と、啓太。 「直くんでしたね」と、森岡さん。 「え? 俺? 違うよ! 俺じゃないってば。ね、ねえ、透さん?」  俺は、隣にいる最愛の恋人に助けを求めた。 「え? いや、直くんでしょ?」  なのに透さんは、微笑みながら俺を見詰めて、優しい声で俺を突き放す。 「と、透さんまで!」 「「「「やっぱりねー」」」」  透さんと俺以外の声が、まるで合図でもしたかのように、ぴったりとハモる。 「な、何がやっぱりだよ! 大体さー、ここは日本なの! スペイン語なんて、話せなくていいの!」  ――まったく……。  昨年の春に、メキシコの友達の店を手伝いに行ったみっきーは、すっかりメキシコかぶれ。 だけどさ、やっぱり日本の正月は、  明けましておめでとう! だろ? ね? そう思わない?  それなのに、みんなにスペイン語で言わせるなんて、ほんっと、いつもみっきールールなんだから。 「何言ってんの、ここは俺の店なんだよ? だから俺がルールなの」 「えらそーだなー、みっき」  俺はちょっぴり拗ねて、カウンターに肘をついて、コロナビールをグビグビと呑んだ。  そう、ここは『BAR awesome!』みっきーの店。  大晦日からここに集まって、ワイワイ騒いでたんだ。  床は落としたナッツの殻でいっぱいで、歩くとガシガシ踏みつけてしまうくらい。  みんなもう適度に酔っていて、俺もなんだかほろ酔いかげん。 「直くん、そんなに一気に飲んじゃ駄目だよ」  今日ここに集まったメンバーの中で、早生まれな俺だけがまだ10代で、  啓太なんて、とっくに二十歳になってる。  いつも、なんとなく保護者みたいに透さんは、俺がアルコールを飲むのを心配するんだ。 「だいじょーぶだよ。ビールだもん。これくらいで酔わないよ」  ほら、ちゃんと呂律だって回ってる。だからそんなに心配しなくってもいいのにさ。 ちょっとだけ……顔が熱い、ような気がするだけで、意識だってほら、しっかりしてるし。

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