46 / 55
『Feliz año nuevo!』(2)
「新年の挨拶を噛んだやつは、罰ゲームって決めてたよな」
桜川先輩が、カウンター席の俺の隣にきて鋭い視線で睨んでくる。
「え? 俺、そんなこと聞いてないけど……」
桜川先輩怖いけど、これくらいで怯んでたまるか。
「そうそう直で決まりだな。さぁ、罰ゲームの始まりだ」
みっきーが、カウンターの中から身を乗り出して俺に向かって指をさす。
「えー、なんでだよぉ」
マジでそんな話、してたっけ?
「逃げるのナシだぞ、直」
椅子から立ち上がって、啓太も俺に指をさす。
「ひ……人に向かって、指さしたら、いけないんだぞ!」
なんだよ……みんなして、俺を落としいれようとしてんじゃねーの?
でもきっと、透さんだけは、俺の味方してくれるんだ。
俺は、隣に座ってる透さんの方に身体ごと向いて、上目遣いで視線を合わせた。
――よしっ、さっき欠伸したばかりだから、目も程よくうるうるしてるし!
「直くん、駄目だよ。約束したことは、ちゃんと守らないとね」
「えーーっ!?」
なんで? なんで? いつも俺のこと、守ってくれる透さんなのに。
いつもと同じで優しい瞳で俺を見詰めて、ちょっと首を傾げて、透さんはあの優しい声で囁く。
「直くん、ちゃんとここで、見ててあげるから。約束は守らなきゃ、ね」
「はーい」
って、思わず返事しちゃったけど……。
って……、えーー?!
なんで? どうして、そうなるの? 何、返事しちゃってんの? 俺。
「んじゃ、一番は俺な。これで勝負するんだ」
なんか、ワケ分かんないんだけど、桜川先輩が、羽子板出してきたんだけど……。
「……は、羽根突きで勝負ですか?」
なんで、羽根突きなんだ? 全くワケが分からない。
「そうだ。正月と言ったら羽根突きだろ? 文句あるか?」
――ふっ、ふっ、ふっ……。
羽根突きで勝負と訊いて、思わず不敵な笑いを浮かべてしまう俺。
――俺の勝ちだ、桜川先輩。
羽根突きなら、子供の頃から負けた事ないんだぜ?
「文句なんて、ないですよ。ふっ……」
――あれ? ところで、なんか罰ゲームが『勝負』に変わってないか?
……ま、いっか……俺にとっては好都合だしな。
店内のテーブルや椅子を隅に寄せて、ホールの中央で桜川先輩と向かい合う。
去年のサークルでの新年会で、桜川先輩にされた事、俺は忘れてなんかいないんだぜ。
今日、やっとあの時の屈辱が晴らせるんだ。
ともだちにシェアしよう!