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 『Feliz año nuevo!』(3)

「俺のサーブからでいいな?」  桜川先輩が前傾姿勢で、サーブの構えをする。  俺は羽子板を握る手に力を込めた  掌にじんわりと、汗が滲む。  辺りは水を打ったように静まり返って、まるで桜川先輩と俺だけしか居ない錯覚にとらわれる。  ニヤリと不敵な笑みを浮かべた桜川先輩は、手を前方に真っ直ぐ伸ばし高いトスを上げ、次の瞬間、羽子板を下から大きく後ろに振りかぶり、物凄いスピードで腕を振り下ろし羽根を打った! 「——うっ、わっ!」  とんでもなく力の入った打球?! じゃなくて打羽根?! が、俺の顔めがけて飛んできた! 「——ッ!」  羽根は、見事に俺の頬を直撃し、あまりの痛さに俺、涙目。  なんなんだ今の? 俺が小さい時から、姉ちゃんや啓太とやっていた羽根突きは、そんなんじゃなかったぞ。  桜川先輩の、まるでテニスでもやっているような羽子板さばきに、俺は絶句する。 「どうした? もう降参か?」  だけど、ここで負けてなるもんか。 「冗談! まだまだ!」  俺は、気を取り直して羽子板を構えた。  だけど桜川先輩の打ってくる羽根は、とんでもなくスピードが速くて、俺は避けることも出来ずに、羽根の球の部分を、身体のあちこちにぶつけられてしまう。  それががとんでもなく痛すぎる!  しかも桜川先輩、絶対俺の身体に当たるように打ってるっ。 「……ッ……」  俺はとうとう、床に膝を突いてしまった。 「どうした? まだまだこれからだぞ」  桜川先輩が、俺を見下ろして嘲笑う。  ——くっそぉ、悔しすぎるっ。  最後に羽根を食らった脇腹を抱えるようにして、桜川先輩を見上げる俺。 「——もう、その辺にしてあげてくれないかな」  そう言って、俺の身体を庇うように肩を抱いてくれたのは、 「……透さん……」 「直くん、もうこんなにボロボロだし、勇樹くんの勝ちってことでいいんじゃないかな」  透さんの言葉に、桜川先輩は「ふんっ」と鼻を鳴らして、そっぽを向いた。  やっぱり、いつだって透さんは、俺のことを守ってくれる♪ 「でも、負けちゃったんだから、罰ゲームは受けないとね」  うん、そうだね……。 「……え? 罰?」 「羽根突きの罰ゲームって言ったら、筆で墨塗るんだよね」  背後から声が聞こえてきて振り向けば、みっきーが人数分の筆を出してくる。 「な、なんでそんなもん用意してるわけ?」 「え? だって、お正月だから?」  と言って、カウンターの上に筆と……、 「ちょ、なにそれ?」 「え? 何って、ローションだけど……あ、これね、ブランデーの香りするんだよ。ほら、嗅いでみて?」  みっきーが、蓋を開けて、ローションのボトルを俺の鼻先へ持ってきた。

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