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 『Feliz año nuevo!』(8)

 ゆっさ、ゆっさと、透さんが歩くたびに身体が揺れて気持ちいい。  透さんの背中が暖かくて、気持ちよくて、また瞼が落ちそうになっていると、 「直くん、初日の出だよ」  と、透さんの優しい声が聞こえてきた。 「え?」  顔を上げて前を見る。  俺が見やすいように、今来た坂道を透さんは身体ごと振り返って見せてくれる。  白々と薄明が、さっきよりも広がってきて、大きくて明るい光が昇っていく。 「……わ……まぶし……」  透さんの背中で、初日の出が見れるなんて、なんかすげえ贅沢な気分。  昨年のお正月は、透さんと夜景を見たなーなんて思い出した。  そして今年は初日の出を一緒に見ることが出来た。  これからも、毎年こうやって、透さんと一緒に過ごしたいな。  つか、いつまでおぶってもらってんの、俺ってば。 「――ごめん、透さん。重かったでしょ? 降ろして?」  大丈夫なのに……。と笑いながら、少し身を屈めて、透さんは俺が降り易い体勢をとってくれる。  いつだって透さんは、俺に優しいんだ。  そうだよ、だから皆にあんなことされてんのに、透さんが黙って見てるはずないよな。  やっぱり、俺は情けないけどビール飲んで酔っ払って、寝ちゃったんだ。うん、そうに決まってる。  ケツが痛いのは……きっと、酔っ払ってたからヨロヨロして尻餅でもついたんだと思う。 「どうしたの? 直くん。何、考えてるの?」  さっき見た夢のことを思い出してたら、透さんに顔を覗きこまれた。 「――な、なんでもないよ!」  ちょっとでも透さんを疑った自分を隠すように、俺は透さんに抱きついて、肩に顔を埋めた。 「……直くん?」  俺の背中を、撫でてくれる手が温かい。 「透さん、明けましておめでとう」  抱きついたまま透さんを見上ると、いつもの優しい眼差しで見つめてくれる。 「明けましておめでとう。今年もよろしくね」  そう言って、俺の額に唇を寄せて、触れるだけのキスをくれる。  それだけなのに俺はまた、早く二人きりになって、続きをしたい! なんて思っちゃうんだ。  だけど……。  俺も、もう4月からは大学も3年になるんだし、我慢しなきゃいけない時は、我慢しなくちゃね。 「ね、今から初詣行こっか」  本当は、家に帰りたい……帰ってエッチしたい! なんて思ってないし! そんな不埒な考えを頭の隅に追いやって、俺は透さんを初詣に誘ってみる。  なのに透さんは、不思議そうな顔をする。 「え? 家に帰らないで?」 「……うん……折角外に居るんだし、帰る前に行ってもいいかなーなんて思っ……」  って、最後まで言い終わらないうちに、いきなり透さんに唇を塞がれた!  軽く啄ばむようにキスしただけで、すぐに離れたけれど、まだ唇が触れるくらいの距離。 「俺は家に帰って、早く直くんのこと食べたいんだけど……?」  俺の耳元に唇を触れさせながらそう囁くと、また俺の目を見つめて艶然と微笑んだ。  そんなこと言われたら、俺の理性なんて……最初っから無いようなもんだけど……。 「……ダメかな?」  そう言って、首を傾げた透さんに、俺の最後の理性の砦は、あっけなく崩壊する。 「だ、ダメなわけないじゃん! じゃ、帰ろ! すぐ帰ろう! 早く帰ろう!」  俺は透さんの手を取って、駅に向かって走り出す。 「直くん、直くん、そんなに慌てなくても」  笑いを含んだ声で透さんはそう言うけど、先に誘ったのは、そっちだからね!  俺は、透さんの手を引っ張って、どんどん先に進んだ。  ――『……早く帰って、さっき触られたところを洗わないといけないしね』 「……え? なんか言った?」  後ろから透さんの声が聞こえた気がして、肩越しに振り返ると、 「……なんでもないよ」  と、いつものように甘くて綺麗な微笑みを向けてくれたから、俺も笑顔を返したけど……。  ――なんか、さっきの洗わないとって、聞こえたような気がするけど……さっきのって……?  さっきのは夢だったんだ。今が現実で。 「……まさかね……」  俺は、透さんの手をギュッと握り直して、その存在をしっかりと確認すると、駅への道を手を繋いだまま二人で走った。  ――新年早々、バカなこと考えてないで、早く家に帰ろう。  ――『Feliz año nuevo!』2014お正月編    END  + to be continued → → (次回はバレンタイン♪)

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