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西野巧が恋に落ちるまで

『…ところで西野さん。』 『ん?』 『俺のこと…その…いつから…好きだったんでしょう…?』 誕生日を祝ってもらい、思いを告げ、やっと俺らも疑似の恋人から本物の恋人になり、思う存分チュッチュしていい雰囲気になっている矢先、天野がそんなことを言い出した。 『んー。わかんねぇ。』 『わかんないんですか?』 『気付いたら?気になってたみたいな?』 『あ…なるほど。』 『お前は?いつから?』 『それは…』 急に顔を赤らめ始めた天野がなんだか可愛い。 こいつをこんなに愛しいと思い始めたのはいつからだったんだろうな…… ***************** 「天野、お前ノーマルか?」 その言葉から全てが始まった。 今まで欲しい物は全て手に入れてきた。 なのに山崎にフラれ、プライドを傷つけられたような悔しい気持ちと、まさかの自分が少し本気で山崎を思っていたという戸惑い。 全てが入り混じりイライラしていたのかもしれない。 小宮と山崎には悔しいがなんとか仲良くやってほしいと、俺は小宮と交代するつもりで大阪に行くことを決めた。 いや、本当に新人の育成には興味があったし、山崎のことだけが大阪に行く決心をさせたわけではない。 毎年行われる新人研修。 近年はクリスマスに行われていて、去年もそうだった。 なのに、俺は異動したてだからと免除された。 研修に参加する気満々だったのに、急に予定がなくなった俺は誰かと酒でも飲もうかと電話帳を開いた。 大阪にはまだ慣れず、東京のツレばかりを探す。 そこで空いていたのが天野だ。 なんとなしに誘った飲み。 元々、俺が東京にいた時代に後輩だった天野は当時からも懐っこくて、可愛い後輩だった。 特別一緒にいるわけではなかったけれど、たまに二人で飲みに行ったり…なんてこともあった。 久しぶりに刺しで飲んだこともあってか、会話は弾みとても楽しかった。 何気に山崎にフラレたことを思い出し少し寂しくなった俺は、なにを考えたのか天野にノーマルか?と聞き、疑似恋愛に付き合わせた。 山崎と小宮に触発されたわけではないが、あぁやってお互いが好き好き言い合って仲良くしている関係をちょっと羨ましく思った。 本当の恋愛というのか? そういうものに興味を持った。 ほんの少し、本当にほんの少しだけ… そのつもりで誘った疑似恋愛ごっこ。 一年という期間を設けたが、やめたければ途中でやめればいい。そんな軽い考えだった。

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