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第1話

 ネオン輝く繁華街。  真夜中でも目に痛いほどに明るいそこはしかし、一歩裏に入った途端明かりが途切れ、闇が広がる。  誰かの悲鳴が聞こえようとも、自身の危険を顧みずそこに飛び込むような者は、この時間帯歩くことはない。  大通りは人波も途切れることなく続き、喧騒に包まれている。 「……いただきます」  俺は、うっとりと俺を見上げる女の耳元でそう囁くと、ペロッと喉元を舐め上げた。  女が酒臭い嬌声を上げる。  紅い色でコーティングされた爪の付いた手は、俺の背中に回されている。  俺は今、この化粧の濃い女を食おうとしている。  抱くんじゃない、文字通り食うんだ。  普段は隠れている犬歯を伸ばし、先程舐めた首筋にそっと歯を立てる。  気取られないよう、身体中に愛撫を施しながら。  唾液に含まれる媚薬成分で、口づけた時にはすでに女は俺とヤることしか頭にないはず。  いただきます。  心の中で手を合わせて、穴の開いた首元から、女の血を啜る。  そう、俺は俗に吸血鬼と呼ばれる人種だ。  人種、というと語弊があるかもしれない。けれど、栄養分を血液からしか取れない、ということ以外は、ほとんど普通の人間と変わらないので、ある意味人種、だと思う。  日光を浴びても平気だし、年だって人間と同じように取っていく。ただ、胃袋が液体しか受け付けないだけ。  酒は飲めるし、ジュースも水も飲める。  けれど、固形物を口にすると、途端に激しい嘔吐に見舞われ、のたうちまわる羽目に陥る。この間俺たち用特設サイトを覗いたら、かろうじてゼリー状の栄養補助食品は大丈夫だったらしい。 「……うっ」  献血一回分くらいの量の血を女から貰うと、俺は喉から口を離した。  ついでに手も離す。  その場に頽れる女を一瞥すると、俺は口元を押さえながら足早にそこを離れた。 「も、ダメ。吐きそう……」  そう呟きながら走って人気のない公園に行き、水道で口を漱ぐ。  口の中から鉄分の味が消え、ようやく俺は人心地着いた。  はっきり言って人間の血は不味い。  栄養分が足りなくなるギリッギリじゃないと、絶対に腹に入れたくない位には。  どうして同じ人種の奴は喜んでこれを飲むのか。 「くっそ、サイトに女の血最高とか書き込んだやつ、誰だよ。この味が最高って、どこの味音痴だよ……クソまず……」  悪態をつくも、腹に入った血液がしっかりと身体中を循環しているのがわかる為、やめるわけにはいかない。死なないために。  酒とか他の物じゃ、こうはいかない。  血液を飲むと、力がみなぎる気がする。 「……でも、あの味じゃな……」  もっとたくさん飲めたら、もっと強くなれるのはわかるんだけど。  この腹の奥から熱くなるような感覚が、もっともっと味わえるんだろうし。  それでも、たとえそれを望んで飲もうとしても、少し飲むとどうしても吐きそうになっちまうんだよ。  ……俺が、味音痴なのか? 「……あー、でも、これであと一週間は持つし……」  一週間後にまたあのくそ不味い血を飲まないといけないと思うと、ひたすらに溜め息しか出ない俺なのだった。

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