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第10話
「何で吸血鬼が救急に電話するんだよ」
白い部屋の中、腕に輸血用の血を繋がれた成久がくくくと笑いながら俺を見上げる。
「てめえ、なんか俺を誤解してねえか?」
「だって、吸血鬼なんだから、もっと違う助け方とかあるんじゃなかったのかよ。そっちの方がかっこいいじゃねえか」
怖がるどころか、目をキラキラさせて俺を見上げてくる男に、俺はがっくりと項垂れた。
「あのなあ……、栄養補給のものがちょっと違うってだけで、あとは普通の人間と変わらねえんだよ? 寿命とかだって、普通に80とかだしよ」
俺がそう言うと、男が驚いたように目を見開いた。
「不老じゃねえの?! 俺はてっきり汐音の血を飲んだら俺も仲間になれるとかそんなんだと思ってたけど?! 俺も吸血鬼にしてもらおうと思ってたのに」
男の言葉に、俺が目を見開いた。
「てめ、何吸血鬼に夢持っちゃってんの?! それ都市伝説だから!」
「なあんだあ……残念だな。でも、俺ばっかりが歳食ってって汐音が若いままってのも寂しいしな」
「ずっと居候する気かよ?!」
「愛を確かめあっただろ」
はあっと溜め息を吐いて、男が横たわるベッドに頭を乗せる。
男から見えないほうに顔を向けて、緩みそうになる口元を必死で隠した。
歳食ってくって、そこまで一緒にいるつもりなのかよ。
内心突っ込み、笑いそうになる。
血とか飲まれて、俺の正体に気付いて、それでもこんなこと言ってくれるこの男は、きっとどこかおかしいんだ。
「それよりも汐音。あの言葉の続き、言ってくれねえのかよ?」
手を伸ばして、俺の髪を弄りながら、男がそんなことを言う。
あの言葉って? と顔を上げて男を見ると、男がニヤッと口角を上げた。
「ほら、あれだよ。「俺だって成久を……」の続きだよ」
瞬間、俺の顔がカッと熱くなる。
あ、あれ、聞いてたのかよ!
「そ、そ、そんなこと、言ってねえ!」
「俺、確かに聞いたんだけどなあ。つうか汐音顔真っ赤。可愛いなあ」
「てめ、うるせえ黙れ!」
俺の怒鳴り声と、男の笑い声は、看護師に注意されるまで続いていた……。
「う―……美味いけど、まずい……」
男の首筋を舐めながら、俺は不思議な感覚に顔を顰めた。
男は無事退院して、当たり前のように俺の部屋に帰ってきた。
手首を切って自殺を図ったところを俺が発見して救急車を呼んだ、ってことになってたせいか、退院時、男は医者に「もう二度とするなよ」厳重注意を受けていたんだ。
思わず横で笑ったら、男に軽く睨まれた俺。
はいはい、俺のせいだけどさ。
「輸血したからじゃねえ? 大丈夫。人間の血液は4か月で入れ替わるっていうし。少しの我慢」
「4か月……長いなあ」
と言いつつ、こんな風に堂々と美味い血を飲めることに、感動すらしてる俺。
今度は飲みすぎないように、いつもみたいに献血一回分で済まそう。
またこんな風に他人の血液が入って不味くなるの、嫌だし。
と、俺は心に誓って、頬を緩めた。
瞬間、唇を奪われる。
「!」
そのまま押し倒され、男を見上げる形になった。
「いっつも不思議なんだけど、汐音とキスすると、すっげえ汐音を啼かせたくなるんだよな……。エロい気分になるっていうか、そのままいきなり突っ込みたいって言うか。でもそれじゃ汐音のエロい孔が大参事になるから必死で我慢してるけど……」
それは、吸血鬼特有の媚薬効果な唾液のせいだから。
とは教えてやらないけど。
男は一人、にやりと笑ってもう一度唇を掠めた。
「きっとアレだな、汐音があんまりにも可愛すぎるからだな……。っつうわけで、今度は俺がいただきます!」
「結局そうなるのかよ! てめえなんか俺の餌だ餌!」
「じゃあ、汐音は俺の、お、か、ず。アーンド、メインディッシュな」
俺の叫びにも動じることなく、男は笑いながら手を動かしていく。
「じゃあ、俺のあっつい肉棒を、汐音のエロい孔に食ってもらうか」
あんまりにもあんまりな男の言葉に、俺は献血一回分の血で済ませたことを、ひたすらに後悔するのだった……。
でも、これもあり、なのかな。
なんて思った俺が、甘いのか?
終わり
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