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共犯者 1
日が暮れて、疎らに星が煌めき、涼やかな風が心地良く肌を撫でて通り過ぎていく。
傍らでは、数え切れない程の自動車が行き交い、幾つもの前照灯が辺りを目映く照らしている。
淡々とした情景を見つめ、共に歩む存在へと意識を傾け、一体何処に向かっているのだろうと考える。
「來」
大丈夫なのか、と言い掛けて口を噤む。
控え目な呼び掛けは、過ぎ行く走行音に虚しくも掻き消され、弟の耳には届いていないようであった。
視線を向けると、寡黙な横顔が映り込み、未だ至るところに刻み付けられた傷が痛々しい。
ふらりと家から出て行くところを追い掛けたが、今回は珍しく同行を許されている。
拒絶する元気も無いのかもしれないが、そう何度も行方をくらませられては困るので、目の届く範囲に居てくれる事に安心する。
「何処まで行くつもりなんだ」
呼び掛けても応答はなく、しかし特に落胆する事も無く、進行方向を何となく見つめる。
途切れず続く交通量の先に、目映く彩られた街の灯りが見え、橋の上からぼんやりと賑わいの様子を眺める。
傍らに視線を向けると、川から冷たい風が吹き込み、手で髪を払いながら來の様子を窺う。
すると、これまで歩んでいた足を止め、導かれるように水辺へと顔を向ける。
「どうした……?」
相変わらず応答は無いが、ゆっくりとした足取りで欄干に近付き始め、首を傾げながらも後を追う。
程なくして手摺りに触れ、肩を並べて景色を眺めるも、日が沈んだ水面の様子は殆ど分からない。
ただ涼やかで、心地良い風だけが幾度も通り過ぎ、一度は千切れた兄弟の絆を繋ぎ止めてくれているかのようだ。
「疲れたか?」
「別に……」
「そろそろ帰るか……?」
「まだいい」
「そうか」
ぽつりと声を掛けては途切れ、それでも答えてくれるだけ大分マシなのかもしれない。
景色は楽しめないが、居心地の良い風に当たっているのも悪くない。
「怪我の具合はどうだ」
「まだ痛ェけど、だいぶマシになってきた」
「そうか、良かったな」
当たり障りのない会話を繰り返しながら、傍らにて佇む頼りなげな青年の様子を窺う。
本当に聞きたい事は、もっと他に山ほどある。
だが、自分だけでは上手く話を繋げられず、また彼が離れてしまう事ばかりを警戒している。
こういう時、ナキツなら上手く聞き出すんだろうな。
なんて、この場にいない理知的な青年を思い出し、彼なら何て言葉を掛けるのだろうかと考える。
しかし思い悩んだところで答えは出ず、自分には到底ナキツの真似事など出来ない。
だからこそ慎重になり、弟との距離感を測りながら、今更埋められるとも思えない溝を横目に家族へと向き合う。
様々な協力を得てようやくここまで来たのだから、せめて無駄にしないよう今度こそ見失いたくなかった。
「ナキツさんと会ってねえの」
「ああ、あれから会ってない」
「ふうん」
薄暗い景色を眺めながら、珍しく來から話を振られ、ちょうどナキツの事を考えていただけに少し動揺する。
ナキツの人柄の良さは、どうやら來にも伝わっているようで、彼の口振りから敵意は感じられなかった。
「いい奴だろ」
「そうだな。兄貴のダチにしては珍しい」
「どういう意味だ」
「つか、兄貴にダチがいるなんて珍しい。だな」
気が付いたように言い直され、僅かに感じた気まずさから何も言えなくなってしまう。
恐らくきっと、ナキツも真宮のように、何の躊躇いも無く友達だと口にするのだろう。
気恥ずかしさも相俟って、ささやかな溜息を漏らしながらも、居心地の悪さは不思議と感じられない。
「心配させやがって。手間掛けさせんじゃねえよ」
「アンタでも心配する事あるんだな」
「当たり前だろ。分かったらもう無茶な事はやめるんだな」
肩を並べて欄干に触れながら、互いに真っ直ぐ水辺のせせらぎを眺めながら、覚束ない会話のやり取りを続けていく。
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