336 / 379
第336話 番外編~拓真(44)~
「……大切な物って言うか、何て言ったらいいか。お守り⁉︎ いや、自分への戒めか⁉︎ どっちにせよ、もう何年も身に着けてたからな、体の一部になってた。ネックレスしてる事すら忘れる時もある」
自分の思ってる事をそのまま正直に話した。
「身に着けてるのも忘れる程? 随分、長く着けてたんですね…でも、お守りは解るけど…戒めって?」
話したら軽蔑するかも知れないと迷ったが…この先を考え、森本には知ってて欲しいと言う気持ちもあったその上で改めて俺と言う人間を知って、この先も恋人として付き合って欲しかった。
俺は迷った末に、詳細は省きながらも大まかな事は話す事にした。
「今から話す事を知った上で、この先も俺と恋人として付き合って欲しいと先に言っておく……俺は学生時代は……女にモテてた。自分で言うのもあれだが……女達が寄ってきて欠かす事はなかった…そんな女達は俺の事は見た目が良い連れて歩くのに優越感を感じてアクセサリーのように思ってたのは俺も解ってた…だから俺も誰にも本気にならないし全てに置いて遊びと割り切ってた。女達が群がり欠かす事がない俺を男達は羨ましくもあり妬ましくも思ってた…女にも男にもいや人間不信になってたのかもな。俺自身もそんな男達を馬鹿にして冷やかに見てたしな。高校の時から、そんな感じだった。俺もモテる事や自分の容姿には自信もあって傲慢って言うか.我儘.自分勝手だった。今、思えば最低な奴だった」
「本郷さんの容姿なら、さぞかしモテたでしょうね。ちょっと、その男の人達の気持ちも解ります」
「だよな⁉︎ その頃は、若かったから解らなかった……大学の時に1人の人に出会って、そいつは女にダラしない俺や傲慢で自分勝手な俺を理解しようとしてくれ、誤解されがちな俺をいつもフォローしてくれた。俺はそいつに自然に惚れた、そして恋人になった……だが、色々就活や卒論とかですれ違う時間が多くなると……俺は寂しさや鬱憤ばらしで遊び始めた。そして……そいつが疑ってた事やそれでも何も言わずに耐えてた事も知らずに…俺の前では、いつも通りで居たから俺も気付かずに…そして色々あって辛い想いをさせた。卒業間際に、何も言わずに俺の前から突然消えた…後悔しても後悔してもどうにもならなかった。これは、そいつとのペアネックレスだ。そいつを忘れないようにと言う気持ちとあんなに好きだった奴を…たった一人の人を幸せに出来なかった辛い想いをさせた自分への戒めもあって、ずっと身に着けてた。そして俺は人を幸せに出来ない人間なんだって…幸せになってはいけないんだって、これを見る度に思ってた」
森本は俺の話を聞いて辛そうな顔を見せた。
俺は森本のにこにこ笑ってる顔が好きなんだ。
だから……そんな顔をするな。
「そう…だったんだ。そのネックレスには、そんな想いが……。その人も辛い想いたくさんしたんでしょうけど……本郷さんも辛かったでしょうね。突然何も言わずに居なくなっちゃって……残された方は……後悔ばかりで謝る事も何もできない、それってキツいですよね。でも……僕の意見としては……もう充分に後悔してるし辛い想いしたと思います。いつまでも前の事には拘らずに、煌君の為にもまだ本郷さんもこれから長い人生あるんですから前に進んで下さい。僕も、ほんの僅かでもお手伝いします。だから……‘幸せになってはいけない人間なんだ’ なんて悲しい事言わないで‼︎」
俺は森本を胸に抱き、顔を見られないようにギュッと抱きしめた。
俺の目から一筋の涙が溢れた。
俺は……誰かに ‘もう充分に後悔したよ。幸せになって良いんだよ‘と言って欲しかったんだ‼︎
その言葉をくれた森本に愛しさと涙が溢れた。
「ありがと。俺はもう誰も愛さない.そいつの事だけを想って生きていこうと思ってた。だが、煌が生まれて……煌に愛情を注ぐ事で罪を償ってた、そして煌によって俺は変わった。愛する者が居る幸せを噛みしめてた。そんな時に、森本君と出会った。森本君の明るさと自分の考えを持ってる所やいつもにこにこ笑って俺はいつも癒されて……煌を通してだが、接するようになって惹かれていくのが解った。もう、誰も愛さない.幸せになる資格がない自分が人を愛して良いのか?幸せになって良いのか?何度も自問自答して迷った……でも……君を好きになるのを止められなかった」
森本を抱いて話すが、涙が頬を伝い鼻声になってたのは隠せない、森本も解ってたかも知れない。
「良かったです。諦めてくれなくて。本郷さんが動いてくれなかったら……僕は自分の気持ちに気付かずに憧れで終わってたかも。……学生の時の本郷さんは正直言って、あまり関わりたくないタイプですけど……僕が知ってる本郷さんは仕事にも一生懸命だし煌君も可愛がってるし、愛情深く不器用だけど優しい人ですちょっと強引な所もありますけど…それも僕には無い魅力です。僕の知ってる本郷さんは、そう言う人です本郷さんが学生の頃のように傲慢で我儘で自分勝手なら……僕は好きになってなかった。これから先……もし、そう言う本郷さんが出てきたら……僕は説教して性根を叩き直してあげます‼︎」
本当に、俺が誰かに言って欲しかった言葉をくれる、お陰で涙が止まらない。
そして最後には重苦しい雰囲気を軽くしようとしてくれる、そんな所も好きだ。
俺も森本に合わせるように話した。
「怖いな。どんなお仕置きされるか」
「お尻ぺんぺんは決定です!」
「子供か⁉︎」
「言う事を効かない人は、子供と一緒です。1つ聞いて良いですか?」
「何だ?何でも聞いて良い」
「その人とは、それから会ったりは?」
「突然居なくなってから会う事は1度も無いが、人伝に幸せに暮らしてると聞いた」
「そうですか。………本郷さん…まだ、その人の事愛してますか?忘れられない?僕はその人の代わりではないですよね?」
俺は慌てた‼︎
森本をギュッと抱きしめ言い募った。
「違う.違う‼︎ 森本君は決して、代わりなんかじゃない‼︎ 俺は森本君自身を見て惹かれて好きになった。誰も愛さないと決めてた俺の心を溶かしてくれたのは、森本君だ‼︎ それは嘘じゃない‼︎」
森本が俺の胸に顔を埋め、ホッとしたように息を吐いたのが解った。
「それを聞いて安心しました」
「それは信じて欲しい‼︎ あと…そいつを愛してるかどうかは……俺の前から突然居なくなって、ずっと心の中にはあった。ずっと、そいつを愛して忘れない事が免罪符だと思ってた。それは煌が生まれても、いつも心の片隅にあった。森本君を好きになって愛して……やっと俺の中で、懐かしい思い出になった。やっと俺もあの時から止まったままの自分の人生を一歩踏み出せた。森本君が嫌なら、このネックレスは外す。以前は、そんな意味合いもあったが、今となっては、本当に体の一部になってるだけだ」
俺の胸で頭を横に振り話す。
「外さなくても良いです。ごめんなさい、僕が変な事を聞いたから…辛い事や言い難い事まで言わせて。……僕が幼稚園の先生になって、初めての給料で、本郷さんにネックレス送ります! それまで着けてて下さい」
森本のその優しさに胸が熱くなり、抱きしめてた腕に力が籠る。
「ありがと。森本君からのプレゼント待ってる」
「初給料だと安い物しか買えないかな?やっぱボーナスにします‼︎」
初給料からボーナスに替わった事は、その分長く森本も俺との事を考えてると思えて嬉しかった。
「森本君から貰えるなら安くても俺には宝物だ。ボーナスと言わず、何年でも何十年でも待ってる」
「ずっとずっと、おじいちゃんになっても?」
「ああ、そのネックレスと共に棺桶に入る」
「お洒落なおじいちゃんですね。ふぁ~、何だか色々安心したら…ふぁ~眠くなってき…た。このまま…眠って…いい?」
「ああ、俺も森本君を抱いて眠りたい。…疲れただろ?ゆっくり休め、おやすみ」
「…………」
返事はなくスースー…寝息が聞こえた。
俺は涙跡を拭い、改めて森本の華奢な体を抱きしめた
もう離さない‼︎
今まで誰にも言えず弱味を見せずに、ここまでやってきた気持ちが、森本に話した事で楽になり頑なだった気持ちが溶けていき、今は穏やかで居られる。
誰も愛さないと決めた俺の気持ちを変えたのは森本だ俺の全ての愛情を煌と森本に注ぐ‼︎
俺に捕まった森本が不憫な気もするが……俺も森本と一緒に幸せになりたい‼︎
2度と、そう思える相手と今後出会う事はないだろう
森本と出会えた事に感謝した。
愛する事をもう一度教えてくれた森本をずっと愛していこう‼︎
そう決意して、スヤスヤと眠る森本を抱きしめ眠りに就いた。
ともだちにシェアしよう!