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第338話 番外編~嫉妬と幸せ①~

「お~い、陽向(ひな)~先に出るぞ。煌の事、頼むな」 玄関まで煌と一緒に来て見送るのは、朝の恒例事になってた。 「パパ~、行ってらっしゃ~い」 煌の目線まで屈み頭を撫で「行ってくる。煌も良い子でな」「は~い」煌の元気な返事を聞き、今度は立ち上がり陽向のにこにこした顔を見て「行ってくる」「気を付けて。行ってらっしゃい」煌の頭をもう一度撫でながら、素早く陽向の唇に触れるキスをするのも朝の恒例事だ。 陽向はいつ煌に見られるか? ドキドキ…するから止めて欲しいと言うが、俺の朝のルーティンでもあるし1日の活力にもなってる。 止められる訳ねぇ~な。 そして名残惜しいが、玄関のドアを開け会社と言う戦場に向かう。 約30分程の電車通勤の中で、電車の揺れに合わせ車窓を眺めてた。 俺と陽向はあの旅行から数ヶ月後に同居する事にした。 陽向が2年になり、実習やら就活もこの先にあると聞き、俺は一緒に居る時間が減るのは2人にとっても良くないと過去からの経験で学んでたからだ。 陽向のアパートは俺のマンションからも自転車で20分程の所だったし、専門学校には俺のマンションからも今までと同じ時間に通える事もあり、少し渋る陽向を半ば強引に説得した。 煌が寝静まった夜に、リビングでゆっくり過ごしてた時だった。 「なあ~、陽向さえ良かったら、ここに越して来ないか?部屋は1つ余ってるし学校もここからでも今と変わらないだろ?」 「それはそうですけど……」 「何か引っかかる事でもあるのか?アパート代は掛からなくなるし、今まで通りベビーシッター代としてバイト代は渡すし焼鳥屋のバイトもしても良い。帰る場所が変わるだけで、今までと生活は無理に変えなくても良い。家事なら、俺もできる範囲で協力するし」 同居したい俺は必死に説得してた。 「確かに、ここでも今のアパートでも殆ど生活パターンは変わりません。今では、こっちに居る時間の方が多い位で寝に帰るだけですけど……。アパート代がなくなるのは助かります……じゃあ、楽になる分ベビーシッターのバイト代は要らないです。焼鳥屋さんのバイト代でお小遣い位は貰えますから……それなら…」 「それじゃ足りないだろ?幾ら、学費は親が出してくれるって言ったって。焼鳥屋のバイト代って月に3~4万だろ?ベビーシッター代が嫌なら生活費とは別に、俺からのお小遣いとして渡す」 「そう言うと思った‼︎ だから同居は嫌なんです」 「はあ?どう言う事だ?」 「僕は学生で確かにお金は余りありませんけど……本郷さんに養って貰うって言うか.囲うような事が嫌なんです。本郷さんの負担にはなりたくないから。なら、今まで通りベビーシッターのバイト代として貰った方がお互いにとって良いと思うし、僕が遠慮して言いたい事も言えなくなりそうで嫌なんです。本当なら、恋人になった時点でベビーシッター代は貰うつもりなかったのに~、本郷さんが学生なんだし物入りだろうからって言うし、恋愛とは別の話だって強く言うから~」 そうか、お互いが良い関係で居たいからって事か⁉︎ 同居自体は嫌ではないって事だし……どうすればお互いにとって良いか?俺は暫く考えた。 「解った! 陽向が良いならベビーシッター代は無しにしよう。その代わり月で生活費を渡すから、それでやり繰りして残金は陽向の好きにして良い自分のお小遣いにしても良いし、翌月の生活費に回しても良いし自由にして構わない。但し、足りない時には遠慮なく言ってくれ。俺は社会人だし陽向は学生なんだから、金の面では少しは甘えてくれ。それも学生の時の特権だと思えば良い」 何としても陽向と同居したい俺は色々理屈を言い説得した。 「でも…………」 「俺は陽向と一緒に居たいんだ‼︎ これから実習や就活で忙しくなるなら尚更だ。いつも帰ってしまう陽向を引き止めようとするのをどれ程我慢してるか?陽向と楽しく過ごせば過ごす程、帰ってしまった後が寂しく感じるんだ。陽向は俺と一緒に生活したくないのか?俺は会えない時間が増えるのは嫌だ! だったら会える時間をどうにか増やそうと努力する方を選ぶ。すれ違うのは嫌なんだ‼︎」 俺はいずれは陽向と同居するつもりだった。 陽向が社会人になってからと考えてたが……ほんの少し時期が早くなっただけの話だ。 陽向はお互いが50対50の関係で居たいと言うが社会人と学生ではそうもいかないのが現実だ。 俺は40対60で陽向の方が有利だと思ってるのが本音だ。 どう見ても俺の方が惚れてる、いや、ベタ惚れだ! 今日を逃したら、また同居の話は先になると必死だった。 「……解りました。僕もたっ君と一緒に居たいし煌君とも一緒に居たい。お金の面は多少迷惑掛けるかも知れません。その時は遠慮なく言います。生活費とは別に僕が本郷さんに個人的に借りたお金は社会人になって返すって事で良いですか?僕も多少の貯金も有りますし、よっぽどの事が無ければ借りる事はありませんけど」 陽向が同居を了承した事に大喜びし、ガバッと抱きしめた。 「金の事は遠慮するな。陽向が気にするなら社会人になってから返す事で良い。金の事より2人が一緒に居る事が大切なんだ‼︎ ありがと‼︎ めちゃくちゃ嬉しい‼︎」 「楽しく過ごしましょうね?たっ君」 「陽向が居れば、それだけで楽しい‼︎」 多少強引であったが、俺は陽向と同居する事に決まり、煌に話したら煌も大喜びだった。 それからの俺の行動は早く2週間後には引っ越し業者の手配して同居した。 同居して数週間経つが、今の所問題なく俺も家に帰るのが楽しみで仕方ないし、仕事にも張り合いができ全てが順調だ。 陽向は俺の幸運の女神だな。 ーー余談ーー 森本を陽向と呼ぶようになると普段は本郷さんと呼んだりするが、最近では部屋の中では「たっ君」と呼ぶようになった。 まるで幼稚園児のようで恥ずかしいやら照れるやらで初めは戸惑ったが、毎日言われると慣れてくるから不思議だ。 「たっ君」と呼ぶ時は、怒られる時か.甘えられる時の大体その2択で少しドキドキ…する。 陽向に言わせれば、煌も俺も手の掛かる子供らしい。 人に甘える事が出来なかった俺がそんな陽向には素直に甘えられる。 2人っきりの時間にしか見せられない‼︎ 「たっ君~」と呼び、にこにこ笑う陽向を見てる時が一番幸せだ‼︎

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