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君という光3
薫は花束を手に、書斎ではなくキッチンに向かった。
綺麗にラッピングされたリボンと薄葉紙を外し、ラックの下に仕舞ってある花瓶の中から、デザインがシンプルな一番大きいものを取り出す。水を入れて薔薇の花束を無造作に突っ込んでみた。
バラりと広がった花束は茎が長すぎて何とも不格好だが、後は冴香が帰ったら上手く直すだろう。
ダイニングテーブルに花瓶を置くと、薫は戸棚からブランデーとグラスを取り出しかけて、首を傾げた。
休日なのだ。朝から飲んでも誰も文句は言わない。だが、1人でいる時に酒を飲むのは、まだ少し怖い。
もうすっかり大丈夫だとは思うのだ。
それでも、またあの頃のようになったら……と少し不安になる。
大学を1年間休学したのは、酒のせいだった。
あの頃は飲みたいから飲むというよりは、飲まずにいられなかった。
酒に溺れて何もかも忘れようとして、それでも忘れることは出来なかった。
あの頃の記憶は、7年経った今でも時折ふと思い出して、もう塞がったはずの心の傷をキリキリと抉る。
薫は顔を顰め、ブランデーとグラスを元の場所に戻した。
さっき感じたデジャブのせいだ。
そのせいでまた、余計なことを思い出してしまった。
……忘れろ。
薫は震える手をぎゅっと握りしめ、キッチンに戻ると、コーヒーメイカーに豆をセットしてスイッチを入れた。
コポコポを音を立てて抽出される黒い液体をじっと見つめる。
今日はここでのんびり過ごそうと思っていたが、どうやら1人でいてはいけない日のようだ。
……例の特別展示会を覗きに行ってみるか。
行こう行こうと思いながら、忙しくてずっと機会を逃していた。
コーヒーを飲んだら出掛けよう。
展示会を見たら、久しぶりに図書館にも行ってみよう。先輩の店にもしばらく顔を出していない。
薫はため息をつくと、押し寄せてくる記憶の波を脳裏から振り払った。
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