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君という光11

コール7回目まで迷って、ようやく受話器をあげてみる。 「……もしもし」 ちょっと待ってみるが、相手からの応答はない。 ……また……悪戯電話か? このところ、たまに無言電話がくる。大抵は夜、自分か冴香が部屋にいる時にだった。 自分は2回ほど受けただけだが、冴香が1人の時に何度か続いて、気味悪がって番号を変えようかと言っていた。 「もしもし?」 もう一度呼びかけてみるが、応えはない。だが、電話を切りもしない。 「君、何が目的だ?」 苛立って少し大きめの声で呼びかけてみる。 「……にいさん」 沈黙の後、微かに声が聴こえた。 薫は、ハッと息をのむ。 ……にいさん……いま、にいさんと言ったのか? 「っ、樹か!」 思わず受話器にかじり付き、大声で叫んでいた。相手が何か呟いた。でもよく聴こえない。 「樹なのか?返事してくれ」 相手は何も言わない。 「樹なんだろ?頼む、答えてくれ。樹…」 プツ……っと電話が切れた。 薫は目を見開いて受話器を見つめる。 もう一度、耳をあててみるが、ツー…ツー…という音がするだけだ。 呆然としながら受話器を置き、着信履歴を見てみるが「非通知」になっている。 ガクッと膝の力が抜けて、薫は慌ててラックに手をついた。 「にいさん」と自分を呼ぶのは、この世に1人だけだ。あれは間違いなく樹だった。どんな声だったのかはよく覚えていない。ようやく聞き取れるほどの微かな声だったのだ。 「樹……」 ズルズルと床に膝をつく。 樹が電話をくれたのだ。 もう少し、声が聴きたかった。 もっと話がしたかった。 ……ひょっとして、これまでの無言電話も樹だったのか? 何度か電話をくれていたのだろうか。 そしてようやく……声を聴かせてくれたのか。 また電話をくれるだろうか。 「樹……」 「お酒……飲んでたの?」 仕事から帰った冴香が、顔を見るなり眉を顰めた。 「ああ。……少しだけね」 薫はそう言って、ブランデーグラスを掲げてみせる。 「1人の時は、お酒、飲まないって言ってなかった?」 「大丈夫だ。ちびちび舐めていただけだよ」 冴香はふう…っとため息をつくと 「携帯に電話しても、あなた全然出ないんだもの。家の方に電話すると話し中になるし」 冴香の言葉に、薫は驚いてポケットを探った。携帯電話はあったが、電源が切れている。充電切れだ。 「ああ……悪い。充電が切れていたよ」 冴香は固定電話の受話器を直すと 「これもズレてる。もう……あなたってこういう所、結構無頓着よね」 携帯電話の充分はこれまでも何度か切らして、冴香から文句を言われていたのだ。 薫は首を竦めて苦笑してみせた。 「悪かったよ。ごめん。次からは気をつける」

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