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君という光10

「りくっ、ここに居たの!?」 背後から、不意に静寂が破られる。 薫は、はっとして白昼夢のような錯覚から現実に引き戻された。 「もう。勝手にあちこち行かないでって言ってるでしょ」 少年の母親とおぼしき女性が、甲高い声で文句を言いながら彫刻に駆け寄っていく。立ち上がった少年は、驚いた顔でこちらを見たが、その顔は樹にはあまり似ていなかった。 薫は足早に庭園から出ると、美術館の入口へと向かった。 老舗のホテル直営のレストランで遅いランチを済ませて、期間限定の造形展示をゆっくり観てから、車でマンションに戻る。予定では街中の大きな書店に寄って専門書を買うつもりだったが、そんな気力は失せていた。 部屋の鍵を開けようとして、ポストにある郵便物に気づく。数通のダイレクトメールに混じって、真っ白な封筒が入っていた。 薫は玄関に入ってダイレクトメールを下駄箱の上に放り出すと、白い封書だけ手に奥のリビングへ向かった。ソファーにどさっと腰をおろして封書をしげしげと見つめる。 宛名も差出人の名前もない。 おそらく、直接ポストに入れて行ったものだ。 薫は眉をひそめ、ペーパーナイフで慎重に封を開けた。 中身は真っ白な便箋が1枚だけ。 開いてみると、そこには 「結婚記念日おめでとう」 と書かれていた。 ……誰からだ……? 薫は便箋の表裏を確認してから、ふと思い出してダイニングテーブルの上の花瓶に目をやった。 今朝、やはり玄関ドアの前に直接置かれていた薔薇の花束だ。 ゆっくりと立ち上がり、テーブルに向かうと、花瓶の脇に置いておいたカードをつまみ上げる。 カードの「Congratulation」の文字は印刷だ。そして便箋に書かれていた文字は手書きだった。 薫は、2枚を並べて見比べてみる。 どちらも、特に何の変哲もない白い紙だった。 だが、今朝の花束とこの封書。 偶然だろうか。何かがおかしい気がする。 ……冴香に……聞いてみるか。 『ルルルルル……ルルルルル……』 絶妙なタイミングで固定電話が着信を告げる。薫はドキッとして、ラックの上の固定電話を見つめた。

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