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君という光13
「あの花束だけかい?君が用意してくれていたサプライズは」
食事が済み、食後のデザートと珈琲が運ばれてくると、薫は仕事絡みの話をやめてさりげなく切り出した。
冴香は首を傾げて
「だけって?何か他にもあったの?」
薫はポケットからカードと封書を取り出して、冴香に見えるようにテーブルに置いた。
「こっちは君がくれた薔薇につけてあったカードだ。そしてこちらは、外出から戻ったらポストに入ってたんだ」
冴香は封筒から便箋を抜き取り開いてみて、眉を顰めた。
「これだけ?宛名も差出人もないのね」
「変だろう?俺たちの結婚記念日を知っている人間は限られてる。でもこんなものをわざわざポストに直接投函していく相手に、心当たりは全くないんだ」
「あなたのご家族が……とは思えないわね。最近は連絡を取ってもいないんでしょう?」
薫は無言で首を竦めた。あの父とも義理の母とも、今では絶縁状態だ。義理の母、つまりは樹の母親は、時折電話や手紙を寄越したが、7年前、複雑な気持ちを押し殺して樹の所在を尋ねた時に無視されて以来、薫の方から歩み寄る気持ちは完全に失せていた。
「君の……弟さんじゃないのかな」
気になっていたことを口に出してみる。
「彼は今、仙台にいるんだよな?」
「和臣が?……うーん……それはないかな。あの子は、私たちの結婚記念日を祝ってくれる気なんてないもの」
「会ってないのかい?あれから」
冴香はちょっと苦々しく笑って
「会おうとしないのはあの子の方。こちらから連絡しても完全に無視だもの」
「……そうか。随分嫌われてしまったな」
薫も少し苦い顔で笑った。
和臣は冴香の一番下の弟だ。冴香と最初に付き合った頃、まだ小学生だった彼は自分にとても懐いて甘えてくれていた。だが、よりを戻した冴香と結婚を決めて、山形の実家に挨拶に行くと、家族の中で和臣だけが結婚に猛反対したのだ。理由は分からないが、敵意剥き出しに「あんたが姉さんを幸せに出来るはずないじゃん!」っと激しく罵られた。
「あの子は……気難しい子だから。母の反対押し切って家を飛び出したりして。こっちにいるのだって結局はあの子の我儘なのよ。末っ子で甘やかされて育ってるからああなるの」
「いい子だよ。姉さん思いの優しい弟くんだった。きっとあの子なりにいろいろ考えがあるんだろう」
冴香は珈琲をひと口啜ると、伏せていた目をあげて
「弟……っていえば……あの子はどうしてるのかしらね。あなたの、弟。樹くん」
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