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闇底に沈む光に5
「やっぱり……あなただったのね」
不意に後ろから声がして、ユウキは慌てて立ち上がった。
こんな時間に戻って来る予定ではない相手だ。
ゆっくりと、声のした方に振り返る。
腕を組み、怖い顔をしてこちらを睨みつけているのは、この部屋の住人だった。
「今度は何を置いていくつもりだったの?」
詰問しながら近づいてくる相手から、ユウキはじりじりと後ずさった。
会うつもりなどなかったし、話もしたくない。
「こないだの花束もあなたでしょ?いったい、どういうつもり?」
ユウキはぎゅっと口を噤んだ。
意地でも返事をしてやる気はないのだ。
その女ー藤堂冴香は、戸惑いもなく歩み寄ってくる。ユウキは後退するのをやめて、くるっと冴香に背を向けた。
「待ちなさい!」
冴香は鋭く叫んで駆け寄ると、腕を掴んでくる。
「質問に答えて。どういうつもりなの?無言電話もあなたよね?」
「うるっさいな。キーキー喚くなよ。近所迷惑だろ。離せよ!」
「なら質問に答えて。薫に何をするつもり?」
「別に?」
ユウキがそう言って薄く笑うと、冴香は眉間にシワを寄せた。
少しの沈黙の後、冴香はこれみよがしにため息をついた。
「私を恨んでいるのね?だからあなた」
「別に?何とも思ってないけど?」
「薫には近寄らないで。余計なちょっかいはやめて」
ユウキは口の端を歪めて笑うと
「余計なちょっかいってなに。俺は何も悪いこと、してないけどな。お祝いを置いていっただけだろ、」
「それが余計なことだって言ってるのよっ」
冴香が悲鳴のような声で遮る。
ユウキは首を竦めた。
「あんた、今のその顔、鏡で見てみたら?すごい醜いよ、お・ね・え・さ・ん?」
すかさず、冴香の平手が飛んできた。
バチンっと頬を叩かれる。スナップも効いてない女の平手打ちだが、長い爪が頬を引っ掻いたのだろう。ヒリヒリ痛む。
チラッと冴香の顔を見ると、青ざめて強ばっていた。
「痛いなぁ。この顔、いちおう商品だから。傷つけられると困るんだけど」
「っ、消えて。2度とここへは来ないでっ」
「心配要らない。俺もあんたの顔、見たくないから」
ユウキは冴香を押しのけるようにして、エレベーターに向かった。
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