320 / 448
闇底に沈む光に6
藤堂のマンションを出て、今夜の宿探しの為に繁華街に向かうバスに飛び乗る。
ポケットに手を突っ込んで、郵便受けに放り込むはずだった手紙を取り出した。
今日の予定では、薫の方が先に帰宅するはずだったのだ。薫の車が駐車場に入るのを確認してから、ポストに入れて様子を見るつもりだった。
……邪魔するなって。
ユウキは、イライラと爪を噛んだ。
冴香からしてみたら、自分の方が邪魔者だろう。でもこうするしか、他に方法はないのだ。
飲み屋が連なるこの市最大の繁華街の入り口でバスを降りた。
金なら久我からの報酬がまるまる残っているが、この辺りの大きな店はヤツの息がかかっている。フラフラしていて見つかると、また余計なお仕事が増えるのだ。
そろそろ看板の灯がつき始めた大通りを避けて、裏路地に足を向ける。複雑に入り組んだ狭い路地を抜けて、一番外れまで来ると、ユウキはさり気なく辺りを見回してから、古い雑居ビルのエントランスに入って行った。
急な階段を3階まであがって、突き当たりの店が目的地だ。
カランコロンとレトロちっくなドアベルを鳴らしながら、木製のドアを開ける。
薄暗い店内には、まだ客は一人もいない。
奥からひょいっと顔を覗かせたこの店のオーナーの宮地が、こちらを見て嫌な顔をした。
「なんだ、おまえかよ」
「ひでえ。そういう顔するなって」
「俺の顔は昔からずっとこんなだよ」
ユウキは首を竦めて苦笑すると
「ねえ、今夜、泊めてよ」
上を指差すと、宮地はますます嫌そうな顔になり
「おまえ泊めてるの、噂になってるんだよ。そのうち怖いのが来る」
「とぼけておけばいいじゃん。もしアイツらが来たら合図してよ。屋上から抜け出すからさ」
宮地はボリボリと頭をかいた。
「久我さんのマンションに帰ればいいだろ」
「やだ。あいつんとこにいたら、身体壊れちゃうもん」
宮地は、はぁ……っとこれみよがしなため息をつくと
「ったく。厄介なの背負い込んじまったな」
「今さらそれ言う?ちゃんとサービスするからさ」
宮地はのろのろと近づいてくると、顎をグイッと掴んできて
「サービスもだが、宿賃も払えよ」
「もちろん。金ならある」
上着の内ポケットをチラッと見せると、宮地は首を竦めて顔を近づけてきた。
タバコくさい口づけに、ユウキは少しだけ眉をしかめる。
タバコの匂いは好きじゃない。
でも、あそこにいるよりは100倍マシだ。
ともだちにシェアしよう!