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光射す午後に4
薫の足は無意識にバルコニーの方に向かっていた。
もう会わないでおこうとか、樹が嫌がるかもしれないとか、いろいろ考えていたはずなのに、足が勝手に動く。
心が、吸い寄せられる。
空いたテーブルの目立つフロアーを、椅子を避けながら歩く。
彼のいる場所まであと半分の距離まで近づいた時、ポケットの携帯電話が着信を告げた。
薫はビクッとして立ち止まり、慌ててポケットから携帯電話を取り出す。
液晶に表示されているのは…「冴香」の文字だ。
マナーモードに設定し忘れていた携帯電話の呼び出し音が鳴り続ける。
出なければ。
早く、応答しなくては。
まばらにいる周りの客たちが、迷惑そうにこっちを見ている。
薫は、バルコニーの彼を見つめたまま、受話器ボタンを押して、耳に電話を押し当てた。
『もしもし?』
「……あ……ああ、冴香か」
『今、どこ?そろそろ買い物終わるんだけど』
「あ……うん。今、2階の…あ、いや、君は食品売り場のレジかい?」
反射的に答えていた。目は彼を見つめたままで。
『ええ。もうすぐレジは終わるわ。そっちに行く?』
「いや……。あ……そうだな。今、まだ本屋なんだ。仕事関係の専門書を探してて…」
『ああ。だったら、会計終わったら本屋に行くわ。私もちょっと見たい本があるから』
「……ああ、分かった。じゃあ、終わったら来てくれ」
プツっと電話が切れる。
薫は呆然としながら携帯電話をポケットに戻した。
そうだ。自分は冴香と一緒にここに来たのだ。彼女が本屋に向かう前に、戻らなければ。
そう、頭では考えているのに、足が言うことを聞かない。彼から、目を逸らせない。
会ってどうするのだ、今さら。
樹は自分に会いたがっていないのに。
会って、何と言うのだ。
7年前、彼に別れを告げたのは自分なのに。今さら、どんな顔をして会える?
それでも、会いたかった。
どうしても、ひと目会って謝りたい。
心が狭すぎて、樹の存在を受け入れられなかった過去の自分の誤ちを…謝罪したい。
ずっと後悔してきた。
あの時、何故、自分は樹を突き放したのだ。出生のことは、樹の責任ではなかったのに。
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