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光射す午後に9
階段を降りて駐車場の車に向かう途中で、Emilia(エミリア)は急に立ち止まった。ちらっと後ろを振り返り、樹の腕をぎゅっと掴んで
「Itsuki.Take your time to talk to him.I'll just be out and about. (樹。彼ともっと話してきたら?私はその辺ぶらぶらしてるから)」
「It's okay. Mia. He ain't that kinda person.(大丈夫だよ。ミア。あの人はそういう相手じゃないから)」
樹が微笑みながら答えると、エミリアはちょっと納得いかない表情で口を開きかけ、でも何も言わずに首を竦めた。
薫は、2人が去って行く後ろ姿を呆然と見守っていた。
追いかけて、もっと質問したい気持ちはあったが、あんなに毅然とした態度で樹に背を向けられては動けない。
……婚約……。樹が……婚約……
何をこんなに驚いているのだろう。
自分だって、冴香と結婚している。
あれから月日は流れたのだ。
自分も樹も、お互いにもうあの頃のままではない。
そう冷静に考える自分を否定したい自分がいる。
何度も夢に見て、頭で思い描いていた再会は、こんな形ではなかった。
樹が可愛らしい女の子を連れていたショックもあるが、それ以上に愕然としたのは、彼の自分を見る眼差しだった。
樹は、7年前のことを、まったく引きずっていない。どんな風に自分と過ごし、どんな別れを迎えることになったのか、ひょっとしたら覚えてもいないんじゃないかとも思える、何の感情もこもっていないあの目。
昔の知り合いに偶然会ったので、軽く挨拶をした。それだけだったのだ。
樹にとって自分は、もはやそういう存在でしかない。
過去をひきずっていたのは、自分だけだったのか。
「薫」
声をかけられ、機械的にそちらを見た。
冴香だ。目が合うと彼女は苦笑して
「忘れてたものって、もう買ったの?」
「あ……ああ……」
「もう……。いつまでも帰って来ないんだもの。心配したわ。何か、あった?」
薫はぼんやりと手を伸ばして、冴香の肩を引き寄せた。
「いや。いいんだ。なんでもないよ」
「そう……。じゃあもう、帰りましょう」
薫は、夢から醒めたような気分で、傍らの冴香を見つめた。
「なあに?私の顔に、何かついてる?」
悪戯っぽい目でそう言われて、薫はぎこちなく苦笑した。
「あ……いや。俺は……昔の亡霊を見ていたらしいって思ってね」
「……誰かいたの?」
「いや。いなかったんだ」
冴香は急に気遣わしげな表情になった。
「薫?あなた……大丈夫?」
「大丈夫だよ。さあ、帰ろう、俺たちの家に」
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